2023年6月29日(木)

▼人気歌舞伎俳優一家の自殺事件は世間を驚かせたが、約1カ月を経て、警視庁は生き残った市川猿之助容疑者を母親への自殺ほう助の疑いで逮捕した。自殺すること自体は犯罪ではないが、他人が関与した場合、関与の仕方次第で罪に問われるのは当然。睡眠薬を準備するなどして母親の自殺を手助けしたと見られたらしい

▼同じ自殺に関与するにしても、自殺関与罪や承諾殺人罪、自殺教唆罪などがあるが、自殺ほう助罪というのは奇妙な法律である。一般にほう助罪は正犯がいて、従犯として位置づけられるが、自殺ほう助罪には正犯はいない

▼刑法202条は「自殺関与・同意殺人罪」として「人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者」を犯罪としている。が、何を持って「幇助」とするかは先の教唆や関与罪に比べ明確ではない。報道の範囲では、猿之助容疑者に調合された睡眠薬が母親の体内から検出されたことを決め手にしているが、もう1種類検出された薬については明らかではない

▼死亡した父母と猿之助容疑者は3人で自殺することを決めて一緒に薬を飲んだという。猿之助容疑者が一人生き残ったことだけをとらえて自殺を“手伝った”という犯行に結びつくのかどうか

▼かつて売春ほう助罪で市中の印刷業者が逮捕され、著名な弁護士らで支援活動が起きた。解釈次第でどんな犯罪にも結びつけられるのがほう助罪だ。猿之助容疑者は手伝ったことを認める供述をしているが、同容疑者の置かれた環境での自供が犯罪を構成するすべてではない。