<まる見えリポート>豚熱猛威も対策頓挫 新型ウイルスの陰でCSF増

【昨年6月以降に県内で確認された感染数の推移】

新型コロナウイルスの感染が拡大する陰で、昨年6月以降、野生イノシシなどの感染確認が相次いだCSF(豚熱)もまた猛威を振るっている。新型コロナウイルスの影響で県境をまたぐ移動や密集を避けなければならず、春に予定していたイノシシ向けの経口ワクチン散布はいまだに実施できていない。その間にも感染イノシシは生息域を広げ、ついに最南端は津市になってしまった。

CSFに感染したイノシシは昨年6月にいなべ市で初確認。同年7月には県内で初めて養豚場で発生し、県は発生施設の豚を全頭殺処分に。養豚場の豚をCSFから守るため、再三にわたって豚へのワクチン接種を要望した結果、国は同年10月に認めた。

ワクチンの接種で養豚場の豚が感染するリスクは大幅に減少したとはいえ、すべての豚に抗体ができるわけではない。県は養豚場の豚への感染を防ぐため、ワクチン接種後もイノシシ向けの経口ワクチンの散布や野生イノシシの調査捕獲を続けてきた。

今春に入り、県内で感染イノシシが急増。昨年6―今年2月までは1月当たり10頭以内で推移していたが、4月は43頭に跳ね上がり、5月は29頭だった。北勢が中心だった感染確認地域は南下し、津市や伊賀地域でも見つかるようになった。

県は3月に伊賀市で感染イノシシが初めて確認されたことを受け、経口ワクチンの散布地域に伊賀、名張、津の3市を追加。この3市の300地点とこれまで散布していた北勢6市町の300地点に4―6月、2回にわたって、ワクチンを埋設する計画を立てていた。

ところが4月に入ると、新型コロナウイルスの感染者が拡大し、政府が全国に緊急事態宣言を発令。感染拡大を防ぐため、県外への移動自粛や県外からの来訪自粛、密閉・密集・密接のいわゆる「3密」の回避などが求められるようになった。

経口ワクチンを散布する具体的な地点を決める際、専門業者や地元の猟友会が実際にイノシシの生息地域を確認する。この作業では県外を含むさまざまな地域から業者を呼ぶことになる。不要不急の移動を避けるため、計画していた散布作業はできなかった。

県CSF対策プロジェクトチームの担当者は、4月に入って県内で感染イノシシが急増した理由を「春はイノシシの繁殖期。雄が活発に動き回る上、生殖活動などで個体同士の接触が頻繁になったことで陽性のイノシシが増えたのではないか」とみている。

その一方で、ワクチンを散布できていないことと感染イノシシが増加したことの因果関係は否定。「一回のワクチン散布で全てのイノシシの感染が防げるわけではない。ワクチンを4月に散布できなかったせいで陽性の個体が増えたとは考えづらい」と説明する。

津市で感染が確認された地点の1つは松阪市まで約10キロと近く、今後県内でさらに南下する恐れがある。県内での感染確認は他府県が感染拡大を警戒する要因にもなる。実際、4月には伊賀市と隣接する京都府でも初めて感染イノシシが見つかった。

県は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が解除されたことを受け、イノシシ向けに散布する経口ワクチンの準備を急ピッチで進めている。作業に関わる業者らの感染対策を講じた上で、4月に予定していた地点での実施を計画している。今月中にも散布を始めるつもりだ。人に感染するウイルスとイノシシや豚に感染するウイルス。2つのウイルスとの戦いはまだ終わりそうにない。