<地球の片肺を守る>航空業界に熱視線

【キンシャサ行き搭乗口の長蛇の列。国際線の利用客数は20年後に約2倍になると予測(国際航空運送協会、2018年)されている=エチオピア・ボレ国際空港で】

先日、日本への出張のための航空券の片隅に、二酸化炭素の排出量が小さく印字されているのが目に留まりました。そして、その数字を見て愕然としました。確か6㌧くらいだったと記憶しています。日本とコンゴを往復する飛行機のエコノミークラス1席分で、日本の1世帯の年間排出量(約3.5トン、家庭CO2統計、環境省)を優に超える量を排出することを示していたのです。現在、飛行機(商用旅客+貨物輸送)の総排出量は、国に例えると、既に世界第五位の日本に肉薄するレベルまで膨れ上がり、航空業界では気候変動対策が待ったなしの状況となっているのです。

16歳の環境活動家として世界中で注目を集めているグレタ・トゥーンベリさんは、先日ニューヨークで開催された国連気候行動サミットに出席するためにヨットで大西洋を横断し、話題になりました。こうした中、欧州では近距離の飛行路線を廃止したり、鉄道料金を値下げしたりするような動きまで出始めていますが、その背景にはこうした事情があります。

当時、日本ではあまり話題となりませんでしたが、危機感を募らせた航空業界は、近年、国連の専門機関(ICAO)において、民間の国際線フライトの二酸化炭素の総排出量を2020年を基準にそれ以降は増加させない、という目標を決定しました。運航数は、途上国の経済成長や格安航空会社(LCC)の参入などで毎年うなぎ上りの状況なのですから、これは大変野心的な目標だと言えるでしょう。

では、航空業界は、この目標を一体どうやって達成しようと考えているのでしょうか。燃費のいい飛行機の開発やバイオ燃料の利用促進などによる排出削減には限界があると言われています。そうした中、航空分野以外の気候変動対策に投資し、その成果を自らの削減量として計上する「カーボン・オフセット」と呼ばれる制度を積極的に活用していくことが検討されています。

そして、その投資先の一つとして、熱帯林の保全プロジェクトが注目されているのです。投資額に見合った削減量が期待でき、それ以外にも、野生動植物の保護や周辺住民の生計向上などさまざまな効果(専門用語で「非炭素便益」といいます)が見込まれることが魅力となっているのです。

以前、このコラムで熱帯林を保全するための革新的な政策として、「REDD+」(レッドプラス)をご紹介させていただきました。「REDD+」とは、端的に言えば、減少が進む熱帯林で保全プロジェクトを実施して得られた成果、すなわち二酸化炭素、メタンなどの温室効果ガスの排出削減量をクレジットとして国際市場などで売買し、その収益を途上国の保全対策に還元する政策です。つまり、このクレジットの有望な買い手が、意外にも航空会社になる可能性があるということです。

今年8月、アマゾンの火災問題に注目が集まる中で公表された国連の気候変動に関する特別報告書では、温室効果ガス削減における熱帯林保全の重要性が改めて確認されましたが、何にも増して重要なことは対策のための資金集めです。持続可能な社会の構築に向けて、航空会社と熱帯林の保全(REDD+)プロジェクトは果たしてウィンウィンの関係を構築できるのでしょうか。世界中の森林関係者が今、航空業界に熱い視線を送っています。

【略歴】大仲幸作(おおなか・こうさく) 昭和49年生まれ、伊勢市出身、三重高校卒。平成11年農林水産省林野庁入庁。北海道森林管理局、在ケニア大使館、マラウイ共和国環境・天然資源省、林野庁海外林業協力室などを経て、平成30年10月から森林・気候変動対策の政策アドバイザーとしてコンゴ民主共和国環境省に勤務。アフリカ勤務は3カ国8年目。