<地球の片肺を守る>熱帯林保全の表明に興奮

【環境省内で引継ぎ式を行う新旧両大臣(2019年9月)】

9月下旬、ニューヨークで行われた国連総会の各国演説をインターネットのライブ映像で観ていた私は興奮を抑えることができませんでした。「わが国はコンゴ盆地の保全に向けて重要な役割を果たしていくため、パートナーとの対話を開始する」、同じく先月、新内閣を発足させたばかりのコンゴ民主共和国のチセゲティ大統領が、全世界が見守る中で、そう表明したのです。

ここで言う「パートナー」とは当然、大統領夫人のことではありません。南米アマゾンに次ぐ世界第2の規模の熱帯雨林「コンゴ盆地」の保全に協力して取り組むためのパートナー…すなわち日本を含めた先進国グループ、国際機関や環境NGOなどのことを指します。

しかし、私たち国際協力の専門家は、どうしてチセゲティ大統領の、このコメントに注目したのでしょうか。

数カ月ほど前から、アマゾンでの森林火災の深刻化が世界中の関心を集めています。そして、この森林火災の主な原因の一つは、ブラジル政府の環境政策、より具体的に言えば、保全より開発を重視するボルソナロ大統領の政治姿勢にあると言われています。同大統領はさらには、G7で合意した20億円の緊急支援の受け入れについても拒んでいます。言い換えれば、熱帯林の運命は、一義的には途上国政府の政策がカギを握っているといっても過言ではないのです。

今回、コンゴのチセゲティ大統領は、同じく国連演説を通じて、「アマゾンはブラジルのものだ」と主張したブラジルのボルソナロ大統領とは全く逆の立場、すなわち、コンゴ盆地の熱帯雨林が全人類にとってもかけがえのない財産であることを理解するとの立場に立って、その保全を国際社会と協力しながら進めていく用意がある、と明言したのです。

この演説に対し、当地の大使館や国際援助機関などの関係者が一様に好意的な反応を示したことは言うまでもありません。早速、私もメンバーとして参加する当地環境関係者の定期会議において、その主要議題に「コンゴ政府(環境省)との対話」を取り上げると、「先進国グループとして連携しながらコンゴの新政府と話し合いを進めよう」、「森林保全の支援のあり方について議論するための分科会を作ろう」…など今後の対話の進め方について活発な意見を交しました。

同様に、環境省側でも、今年9月に新しく就任したばかりのニャムガボ環境大臣の下で、パートナーとの関係構築を進めて行かなければいけない、といった雰囲気が広がり始めました。

コンゴの新政府は、ブラジルでの出来事を反面教師として、国際社会と協力しつつ、コンゴ盆地の保全対策を進めて行くことが、果たしてできるのでしょうか。私は先進国から派遣されコンゴ環境省に席を置く、すなわち、先進国、途上国双方の立場を理解する省内唯一の政策アドバイザーとして、非常に重要な役割を果たすべき立場にいることを認識し、身の引き締まる思いを感じました。
【略歴】大仲幸作(おおなか・こうさく) 昭和49年生まれ、伊勢市出身、三重高校卒。平成11年農林水産省林野庁入庁。北海道森林管理局、在ケニア大使館、マラウイ共和国環境・天然資源省、林野庁海外林業協力室などを経て、平成30年10月から森林・気候変動対策の政策アドバイザーとしてコンゴ民主共和国環境省に勤務。アフリカ勤務は3カ国8年目。