-未来型オフィス提案 経費削減アイデアちりばめ- 「博進堂」社長 奥田翔悟さん

【「地域に愛され、なくてはならない会社となるべく社員と力を合わせて精進していきたい」と話す奥田さん=津市高茶屋で】

 津市高茶屋の「博進堂」は大正10年、曾祖父の幸太郎さんが創業した文房具卸商社「奥田洋行文具店」が前身。昭和21年に「岡井博進堂」と改め、同47年に社名を「博進堂」とした。平成28年、会長に退いた父邦雄さん(65)から経営を引き継いだ。

 創業当時は和洋紙や文具が主な商品だったが、時代の進歩に伴ってスチール製の机、椅子、書庫などを取り扱うようになった。現在は、オフィス家具やOA機器、内装仕上げ工事なども手掛け、働きやすい職場環境の整備に加え、個々の事業所の業務効率を上げるための改善点も提案。官公庁をはじめ企業や店舗など、県内全域にエリアを拡大して業績を伸ばしている。

 津市で3人兄弟の長男として生まれた。母典子さん(61)の勧めで4歳からサッカーを始め、高校1年まで12年間打ち込んだ。共に汗を流した仲間との交流はいまも続いているという。

 高校卒業後は、愛知県の中部大学に進学した。経済情報学部で学ぶ傍ら、部品工場や建築現場でアルバイトにも精を出した。自分の労力が対価となる喜びを初めて知り、金銭の価値を実感した。「勉学だけでなく、仕事への向き合い方を学び、社会に出るための準備期間としての有意義な4年間だった」と振り返る。

 大学卒業後は、父の紹介で文具・オフィス家具の大手メーカー「コクヨ」に入社。代理店を通さず顧客に直販する営業マンとして、新規開拓に励んだ。2年目にリーマンショックが起こり、メーカー目線から代理店である家業の危機を感じ取った。翌年、父から業績不振を理由に「戻ってきてほしい」と連絡があり、退社して家業の「博進堂」に入社した。

 「コクヨ」での3年間の営業経験を生かし、飛び込み営業で新規開拓に力を注ぎ、売り上げの拡大を図った。無我夢中で働き、ようやく業績が戻り始めたころ、体調を崩した父から経営を任されることになった。「曾祖父の代からの会社を継ぐに当たり、今以上に業績を伸ばして後継者に引き継がなければ」と心に誓った。

 近年のネット通販の普及と物流の発達によって、代理店として必要最小限の在庫で対応できるようになった。平成30年、これまでの第2倉庫を本社事務所に改修し、自身と社員15人が実際に働く環境をモデルオフィスとして顧客に公開している。

 オフィスは社員の固定席をなくした共有スペースになっており、社員は専用ロッカーから書類を出して好きなデスクで執務する。ラインでの情報共有や複合機のICカード認証など、職場の整理整頓や能率アップ、経費削減のためのアイデアがちりばめられ、未来型オフィスとして顧客らの注目を集めている。

 経理担当として共に働く妻望さん(34)と長男愛翔さん(10)、次男唯翔さん(8つ)の4人家族。「お父さんの跡を継いで社長になる」という息子たちの言葉に喜びを感じる半面、「何でもいいからこれだけは誰にも負けないものを見つけてほしい」と願っている。

 今後は、顧客企業に経費節減や業績アップにまで踏み込んだ提案ができるようになりたいという。「信頼関係を大切にして地域に愛され、なくてはならない会社となるべく社員と力を合わせて精進していきたい」と展望を語った。

略歴: 昭和59年生まれ。平成19年中部大学経済情報学部卒業。同年「コクヨマーケティング」入社。同22年「博進堂」入社。同23年2級建築施工管理技士資格取得。同28年津青年会議所入会。同年「博進堂」社長就任。