障害者がワインづくり 伊勢の福祉事業所、特区を活用 三重

【ワイン用ブドウを一房ずつ丁寧に収穫する施設利用者=伊勢市御薗町で】

【伊勢】小規模なワインづくりが可能な「ワイン特区」に今年認定を受けた三重県伊勢市で、市内の福祉事業所が制度を利用し、ワインの生産に乗り出した。障害者がワインブドウの栽培から醸造まで携わり、いきいきと働くことができる場を創出し、地域の新たなブランドとなる伊勢産ワインの誕生を目指す。

乗り出したのは、障害者の就労継続支援事業所「ジョブスタジオ伊勢」。施設に通う10人が、特区を活用した初の伊勢産ワインづくりに挑戦している。

今月の収穫日、同市御薗町に広がる約1万平方メートルの畑で、赤ワイン用のブドウを収穫。濃い紫色に熟した房をハサミで丁寧に摘み取った。収穫したブドウは軽トラックに積み、市内の醸造施設に運び入れ、手作業で枝から実を取り外す。そこに酵母を加え、発酵、醸造を経て、ワインが出来上がる。作業したかんたさん(22)は「夏の除草作業は大変だったけど、ブドウが実ってうれしい。僕たちの作ったワインを飲んでほしい」と笑顔。施設では、農作業や実の取り外し、ワインの瓶詰め、ラベル貼りなど、利用者が個性に合わせて仕事を分担するという。

【ワインを仕込むためブドウの実を枝から外す作業をする施設利用者と岩崎さん(左から3人目)=伊勢市村松町で】

ジョブスタジオ伊勢は、県内で障害児や高齢者の福祉施設を運営する「ケアプロフェッショナル」(同市村松町)が昨年立ち上げた。社長の岩崎直明さん(43)は障害児施設を運営する中で、「この子たちが大人になったとき、地域で力を発揮できる場をつくりたい。年間を通じ、安定的な仕事ができる場があれば」と、ブドウ栽培、加工、販売と一連で仕事ができる農場とワイナリーの構想を思い立ったという。

構想の実現に向け、6年ほど前から、岩崎さんは試験的にブドウの栽培を開始し、伊勢の気候に合う品種や栽培方法を試行錯誤。地元の農業者らの協力で耕作放棄地を活用し農地を広げて農場を整備し、ワイン会社「伊勢ワイン」とジョブスタジオ伊勢を立ち上げた。

岩崎さんらの活動を知った市は、小規模な事業者がワインを醸造しやすくなる「ワイン特区」を国に申請し、3月に認定された。これにより市内で生産された農産物を原料とすれば小規模醸造が可能となり、10月に醸造免許を取得。念願のワイナリーが始動した。

岩崎さんは「多くの人の協力があってここまできた。目指すのは、障害者の活躍の場をつくること。彼らが仕事を通じてスキルアップし、社会参画することで誇りを持って働ける場所にしたい」と話した。

今季に仕込んだワインは、早いもので来年6月ごろ販売開始する予定だ。