「まる見えリポート」認知症フレンドリーシティ鈴鹿 スローショッピングで連携進む

【喜田さんと一緒に買い物を楽しむ安田さん(右)=鈴鹿市岡田3丁目のマックスバリュ岡田店で】

高齢者や障害者などお金の出し入れに時間がかかる人たちが、ゆっくりと会計できる「おもいやりレジ」を設置する三重県鈴鹿市岡田三丁目のマックスバリュ岡田店で、認知症の人たちがボランティアと一緒に買い物を楽しむ「スローショッピング」の取り組みが進む。昨年7月から月一回実施しており、県若年性認知症支援コーディネーターの伊藤美知さん(69)は「行政と地域や企業の連携が成功している事例」と評価し、「認知症に優しいということは高齢者や障害者、子どもにも優しいということ。取り組みを広げることが、住みよいまちにつながる」と話した。好循環を生み出す連携の現状や今後の課題を取材した。

市によると、市内には現在認知症の人が約5千人いるという。65歳以上の高齢者は約5万人で、単純計算すると10人に1人の割合となり、今後さらに増加が見込まれる。

支援活動の中心となるのは市や市社協、市内の認知症支援機関、ボランティアなど計15団体で構成する同市認知症連絡協議会。市独自の組織で、情報共有や連携を図るため令和3年に設置した。

昨年12月には市が、認知症を含めた「誰にも優しい地域づくり」を推進するとともに、市民に周知や参画を促すことを目的とした「認知症フレンドリーシティ鈴鹿」を宣言。趣旨に賛同する協働事業者をパートナーとする登録制度の創設は市独自で、1番目の登録事業者となる食品スーパーのマックスバリュ東海(作道政昭社長、本社・静岡県浜松市)は現在、岡田店を含めた市内七店舗で「おもいやりレジ」を展開するとともに、従業員が「認知症サポーター養成講座」を受講し、理解を深める。

10日のスローショッピングに同行した。この日の参加者は、同市安塚町の認知症対応型通所介護施設「デイハウス沙羅」の利用者7人。買い物を支援するのは、市認知症連絡会のボランティアや市認知症地域推進員など12人。

参加者と支援者は、毎回当日組み合わせを決める。この日は「好きなパン」を選んだ同士がペアを組み、各参加者が事前に作った買い物リストを見ながら、商品を選んだ。1人分の予算は施設での作業の収入で得た500円。

参加者の1人で、若年性認知症の安田日出子さん(62)は、脳の障害で視野が狭く、空間認知が苦手。歩きにくさや段差が分かりにくいなどの困難はあるが、介助者が一緒にゆっくりと行動することで、買い物も楽しめる。

この日はメロンパンつながりで、同推進員の喜田奈穂さん(43)と店内を歩いた。買い物リストには、ビスケットとチョコレート菓子の商品名が書いてある。喜田さんは安田さんの腕を支えながら、一緒にゆっくりと菓子売り場まで移動。安田さんが自分で目当ての商品を探しやすいよう、自然に誘導しながら「ここら辺にありそう」と、声かけも欠かさない。

商品を見つけた安田さんは、うれしそうに手に取り、かごに入れた。青果コーナーでは焼き芋機を見つけて「こんなのがあるんだね」と驚いたり、喜田さんとの会話も楽しそう。

おもいやりレジでは、喜田さんからお金が入った袋を受け取り、500円玉で支払いをした。受け取ったレシートとおつりの73円を袋に戻すのは少し苦戦していたが、喜田さんのフォローで無事買い物終了。安田さんは「ちゃんとできたよ」とうれしそうに笑い、ガッツポーズでおどけてみせた。

参加者の帰宅後は、店内で支援者とレジ担当者の反省会があり、支援者の「(参加者が)目的外の商品をかごに入れた場合、必要と思う気持により添いながらも、気付かれないように元の位置に商品を戻すのは大変」という意見には、レジ担当者が「レジで渡してもらえれば。売り場のスタッフでも大丈夫。迷惑にはならない」と答えた。

別の支援者は「おもいやりレジができ、安心してレジが使える。回を重ねるごとに相手を見極めて切り替えてくれる。一呼吸置いて、にこっと笑って顔を見てくれると勇気が出る」と意見を述べた。

買い物を通じて、それぞれが互いの立場で関わり合う中で、ともに理解を深めていくきっかけにもなっているようだ。

市長寿社会課の中上陽子課長は「まだ周知が足りていない。地域の応援者をどんどん増やして社会の仕組みを変えていければ」と話した。