大観小観 2022年5月25日(水)

▼「学習塾あだ花論」の盛んな時期を知る一人としては、隔世の感をぬぐえない。伊勢市の鈴木健一市長が「家庭環境による教育格差是正」を理由に、低所得家庭の中学生を対象に学習塾の利用費用を助成する方針を発表した。塾は教育の主役になっていることが前提だろう

▼「あだ花論」の基本的考え方は受験戦争激化の産物ということ。高校進学で「15の春を泣かせるな」をスローガンに、県でも昭和49~平成六年まで進学先を学校が振り分ける「学校群制度」が施行されていた。進学塾が高校の難易度を分析していた事業へのデータ提供や試験会場貸し出しが禁止になり、県教職員組合(三教組)は塾通い反対を主要な運動にしていた

▼にもかかわらず、高校が一定の点数以下を不合格にする慣行がやまず、大学への進学率が低下したことで政策は大きく転換。今は、塾通いに児童生徒が忙殺される話は珍しくなく、教育格差は進んでいるということだろう

▼実態は、コロナ禍でさらに厳しくなっているとされる。県内の不登校生は小学校823人、中学校で1616人(令和二年度)。非正規労働者の解雇なども主因の子どもの貧困があるとされ、最近はヤングケアラー問題が指摘されている

▼貧困家庭の教育格差是正については給付型奨学金制度の普及などが取り組まれているが、名張市ではケアラー支援推進条例を制定した。伊勢市の学習塾費用支援施策は、実効性狙いか。鈴木市長は「親ガチャという言葉がはやる中」と背景を説明した。慌ててその意味をネットで検索したのは仕事柄、汗顔の至り。