<まる見えリポート>人口減少時代のお寺 移せる墓石、本堂で結婚式

【墓石と骨つぼを一体化した「偲墓」】

三重県松阪市中町の仏壇・仏具「佛英堂」は複数の寺院が連携し、小型の墓石を使い檀家以外も供養する墓地不要の仕組み「偲墓(しぼ)」を始めた。菩提(ぼだい)寺が檀家(だんか)の葬儀に関わる在り方を超える取り組みだ。また多気町では本堂で結婚式を挙行。高齢化や過疎で檀家が減少し、住職の跡継ぎがいなくなる「寺院消滅」が進む中での環境適応に見える。

佛英堂の野呂英旦専務が開発した供養の新システムで中心となる「偲墓」は、墓石と骨つぼを一体化したミニサイズの石材加工品で移動可能。墓石代や彫刻費、入仏法要、永代供養料などを含め初期費用27万円で提供する。自宅からお寺に移した場合の設置期間は利用者が決め、解約後は永代供養墓で合葬される。これまでに県内外の15寺院と提携し、6件の申し込みがあった。

お墓を作らず遺骨を自宅に安置する人が増える中、骨つぼ・骨袋のまま置いておくと、きちんと供養できていない感覚になるという声を聞いたのが、思慕を考えたきっかけという。

墓石価格は土地を含め100万円以上が一般的だが、偲墓は土地不要の小型墓石で低価格を実現。「お墓を継いでくれる人がいない」「お寺との付き合いは面倒」「先祖代々のお墓に入りたくない」「墓地がない」という悩みを解消した。

供養サービス付き「偲墓」は日本商工会議所青年部第19回ビジネスプランコンテストのグランプリに輝いた。松阪商工会議所青年部が開いた3月29日の祝勝会で、野呂専務は最優秀賞のプレゼンを披露し、「今年は提携先百寺院、契約500件、利益1億円が目標」「厚生労働省の推計では2041年まで死亡人口は増加し、年間169万人。目標は達成可能と思う」と意気込んだ。

人口動向を見据えた事業展開を説明しながら、「全ての人が供養で悩まないようにしたい。身近にお坊さんがいたら、ぜひ紹介してください」と呼び掛けた。

一つの墓に何人も入る「家代々の墓」が一般化したのは、土葬に比べ場所を取らない火葬が普及し、長男が墓を継ぐ明治民法が施行されてからに過ぎない。1世紀を経て古来の風習のようになっているが、人口減少の画期が変革を迫っている。

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お寺は地域交流の中心としての役目を果たし、僧侶が子どもに読み書きそろばんを教える「寺子屋」にもなっていたが、現在は葬儀や法事などでしか関わりがない。そこで「これからの新しいお寺の在り方の一つ」として、多気町四疋田の真宗大谷派法受寺で4月3日、結婚式があった。

コロナ禍で挙式を諦めていた松阪市の26歳のカップルが、同寺の後継者の折戸沙紀子さんから提案を受け、親族や友人ら約20人を招き本堂で開いた。

沙紀子さんが新婦と友達で、父が住職の同寺を会場に勧めて実現した。同寺での結婚式は初めてとなる。

仏前式は念仏や法話、焼香などがあるが、今回は人前式で開催。新型コロナウイルス感染対策のため、本堂の扉を全開して換気した。

新郎はあいさつで「コロナ禍で結婚式を諦めかけていた。皆さんにお会いできて感謝の気持ちでいっぱい。思いやりの気持ちを大切に、長い人生を歩んでいく」とあいさつ。2人の誓いの言葉に続き、指輪交換。子ども時代の出会いや交際を記録した映像を大型モニターに映し出した。

折戸さんは「若い人がお寺の中に入ることはなかなかない。お寺を仏事だけでなく、人生の門出の場所として使ってほしい」と語った。