〈まる見えリポート〉鈴鹿税務署長初の女性 性別意識せず、自分らしく 若手職員の育成にも注力を

【鈴鹿税務署初の女性署長に就任した山本署長=鈴鹿市神戸9丁目の鈴鹿税務署で】

今年7月、鈴鹿税務署に山本久美子署長(56)が就任した。同署初の女性署長として約5カ月。山本署長は「男性でも女性でも、署長としての責務は変わらない。自分らしく全うしたい」と今後の抱負を語った。

岐阜県恵那市出身。学生時代の先輩から「高度の専門知識が得られる仕事」と聞き、昭和59年に名古屋国税局に入局。これまでに、岐阜北税務署筆頭副署長、名古屋派遣国税庁監察官、名古屋国税局審理課長などを務めた。

採用時は男女雇用機会均等法の施行前。女性職員が個人事業者に対する所得税、消費税の調査を担当する時代ではなかった。強く希望し調査担当となったものの、当時は調査に行くと「あなた一人なの?」「男性職員を連れてきて」と言われ、悔しい思いをしたと振り返る。

ほぼ同時期、映画「マルサの女」を見て、女性査察官役の女優が活躍する姿に憧れた。「自分の現状とのギャップとともに、改めて誇れる仕事だと実感した」と、あの時の衝撃は今でも忘れられない。

プライベートでは結婚後、24歳で長女を出産。当時は育児休業制度もなく、産前産後休暇後はすぐ仕事に復帰した。仕事と育児に追われ、綱渡りのような毎日。保育園のお迎えはいつも閉園時間ぎりぎりで、広い保育室に長女だけが先生と残っていた。息を切らして保育園に駆け込んだとき、先生から「お母さん、少しくらい遅れても大丈夫だから」と優しく声を掛けてもらったことが救いだった。

27歳の時、専門官職としてのステップアップのため、東京の税務大学校で1年間の研修を受講。すでに長女がいたため、迷いはあったが母親から「応援するから頑張れ」と言われたことが後押しとなり、試験に臨んだ。

選抜試験で全国から約500人が選ばれたが、その中で女性はわずか18人。さらに子を持つ母親が、単身で研修受講することはほとんど無かったため、職場の上司や先輩の祝福はなかったという。

1年間は、毎週末に東京から新幹線で帰省。新幹線の中で試験勉強やゼミの準備をして娘との時間を作った。この頃から「娘に恥ずかしくない仕事をしよう」と常に思ってきた。

いつの間にか、スーツを着ると「仕事モード」、脱ぐと「育児モード」という切り替えスイッチが自然にできた。長女の「スーツのお母さんはかっこいいから大好き」という言葉に励まされ、背中を押されて仕事に行った。長女には辛そうに働いている姿ではなく、前を向いて仕事をしている背中を見せたかった。「愛情は一緒に過ごす時間の長さではない」と自分に言い聞かせていた。

三重県での勤務は今回が初めて。管轄する鈴鹿、亀山両市の印象について「自然と産業が調和した地域。温暖な気候のように穏やかで優しい人が多いと感じる」と話し、「鈴鹿市は市長と商議所会頭が女性。女性が活躍している地域で勤務できることを光栄に思う」と期待を寄せる。

道なき道を手探りで進んでここまできた。もちろん家族や職場の理解も大きいが、仕事と育児を両立して働いてきた女性職員の一人として「これからも女性職員が性別を意識することなく、自分らしく働いていけるよう声をかけ、励まし、寄り添っていきたい」と、若手職員の育成にも力を入れる。

年々女性職員の採用は増えており、現在では新規採用の約4割が女性となった。男性職員の育児休業取得も増えている。「あらゆる部署に女性が就くことが当たり前となり、生き生きと活躍する後輩たちの姿を見ることがうれしい」と笑顔を見せる。

年が明ければすぐに確定申告の時期が来る。「スマホのカメラ機能を使い、自宅で簡単に申告できることをしっかりPRしていきたい」と署長の顔に戻った。