県立大設置の是非 若者の県内定着つながるか 慎重な議論求める声も

【県立大の設置を巡って議論する有識者会議=県庁で】

三重県が設置の是非を巡って議論を進めている県立大。高校生や保護者を対象としたアンケートを発表すると同時に「一定のニーズがある」との見解を示したり、有識者会議の委員から前向きな発言が相次いだりと、早くも設置に向けた雰囲気が漂う。ただ、学部や規模などが決まっているわけではなく、肝心な財源の議論も未着手。庁内からは「設置ありきであってはならない」と、慎重な議論を求める声も上がる。さらには若者の県内定着という目的を達成できるかどうかも定かではないなど、設置に向けた課題は多い。

「県立大の設置に対するニーズは一定ある」。県が先月25日に公表したアンケート結果に添付したコメントだ。県立大を進学先の候補として考える割合が高校生の5割、保護者の8割に達したからだ。

県が立ち上げた有識者会議でも「この結果だけではニーズがあるとは言い切れない」との指摘がありつつも「一定の反対は想定された」「三重大より魅力的な学校に」などと、多くが前向きに受け止めたようだ。

県が設置の検討に当たって現状の課題として設定しているのは、若者の県外流出。「若者が高校卒業後に県外へ出て行ってしまうのは、学びの選択肢が県内に少ないからではないか」との考えからだ。

県が根拠として挙げるのが進学先の少なさ。県内の高校を卒業した大学進学者に対する県内大学入学者数の比率(大学収容力指数)は令和2年度で47・8%。和歌山県(47・1%)に次いで2番目に低い。

県は有識者会議の議論を踏まえ、年度内に設置の必要性などに一定の考えを示す方針。「設置の意義がある」と判断すれば大学の具体像などを検討し、令和四年度末にも設置の可否を決めるという。

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一方で、庁内からは県立大の設置を巡る議論を懐疑的に捉える声も上がっている。ある県職員は「保護者や高校生に聞けば、設置を望む声が多いに決まっている。もう少し慎重に議論した方が良い」と話す。

設置に当たって最大の課題となるのは財源だろう。いかなる規模でも相応の出費を伴うはず。県の財政担当者は「もし作るなら、他の予算を大幅に削減する必要がある」とし、議論の動向を注視する。

県が検討に当たって作成した資料には他県の「先進事例」が多く並ぶ。一方、県内では皇學館大社会福祉学部(名張市)の撤退や三重中京大(松阪市)の閉学もあったが、これらの具体的な記述は見当たらない。

ましてや人口減少に直面する中での議論。ある私大の幹部は「県立大ができたとしても結局は大学同士で生徒を奪い合うだけでは」と懸念する。そうなれば、県が目指す若者の県内定着も達成できそうにない。

そもそも県立大の検討は竹上真人松阪市長からの要望が発端だ。その要望を受けて検討を指示した鈴木英敬前知事は、今や衆院議員に。設置の是非を巡る最終的な判断は、一見勝之知事に委ねられる。