<みえの事件簿>津5人死傷事故 法と常識、一致せず 遺族、一審判決に憤り

【危険運転致死傷罪の成立を認めなかった一審判決後、判決結果に憤る大西まゆみさん(右)と牛場里奈さん=津市中央で】

法と常識が必ずしも一致しないことを浮き彫りにした裁判だった。平成30年12月、一般道を時速146キロで走行中の乗用車がタクシーに衝突し、乗客ら4人が死亡、1人が重傷を負った事故。6月に津地裁であった裁判員裁判で、柴田誠裁判長は危険運転致死傷罪の成立を認めなかった。「一般道を時速146キロで走る行為が危険運転でなければ何なのか」。判決を受け、遺族は涙に声を詰まらせながら司法の理不尽さに憤った。控訴審判決は来年2月12日。遺族は「今度こそ危険運転を認めてほしい」と願っている。

この事故で自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)の罪に問われているのは津市白山町、元会社社長、末廣雅洋被告(58)。一審判決によると、末廣被告は30年12月29日夜、制限速度時速60キロの国道23号(同市本町)で、乗用車を146キロで走行中、道路を横断していたタクシーの側面に衝突し、運転手と乗客計5人を死傷させた。

末廣被告は初公判の罪状認否で「法定速度を上回った速度で走り、事故を起こしたことを認めるが、正確な速度は分からない。車の進行を制御できなかったとは認識していない」と起訴内容を否認。弁護側はより量刑の軽い過失運転致死傷罪を主張した。

一審で検察側は末廣被告が過去に8回事故を起こし、うち1回は1年間の免許取消処分になったことを指摘。公判を傍聴した遺族は閉廷後の取材に「普通は一度事故をすれば気をつける」と憤り、別の遺族は「運転をさせてはいけない人」と非難した。

「殺人と同じ」。被害者意見陳述では、事故で重傷を負った萩野将志さん(30)の弁護士が「事故を思い浮かべるたびに心が壊れそうになる。あなたがしたことは殺人と同じだ」とする心情を代読。ほぼ毎日通院するなど、萩野さんが後遺症に苦しむ様子が語られた。

亡くなった大西朗さん=当時(31)の母、まゆみさん(61)も意見陳述し「どんなに会いたくてももう会えない」。結婚間近だった朗さんや婚約者にとって「一番幸せな時期から突き落とされた」と強調。傍聴席からはすすり泣きが聞こえ、目を真っ赤にする人もいた。

一審で検察側は懲役15年を求刑、危険運転が認められない場合の予備的訴因、過失運転致死傷罪では懲役7年を求刑した。弁護側は改めて過失運転致死傷罪を主張。146キロの走行が制御不能な運転か、制御不能と末廣被告が自覚していたかが争点となった。

迎えた判決公判で柴田裁判長は時速146キロを「異常な高速度」と指摘。一方「わずかなミスで事故を起こすことを具体的な可能性として思い浮かべるには合理的な疑いが残る」とし、危険運転致死傷罪を適用せず、過失運転致死傷罪で懲役7年を言い渡した。

「危険運転でなければ何なのか」。判決後、報道陣の取材に応じた大西朗さんの婚約者、牛場里奈さん(34)は「15年でも短いのに7年なんて短すぎる。私はもう二度と朗に会えないのに」と涙で声を詰まらせ、判決に憤った。

弁護側が即日控訴したことに怒る遺族も。夫の永田誠紀さん=当時(58)を亡くした妻のあゆみさん(48)は「20年でも軽いのに本当に腹立たしい」と怒りをあらわに。津地検は「常識に欠ける法律判断を是正する」とし、後日控訴した。

12月に名古屋高裁で控訴審初公判が開かれ、即日結審。遺族は一審の当初から「難しい法律解釈ではなく、常識にのっとった判決を出してほしい」と望んできた。思いは届くのか。5人が死傷した大事故の公判に注目が集まっている。