<まる見えリポート>名張から世界目指す 近大高専・三段跳びの伊藤陸選手

【和やかな雰囲気で陸上部の練習に臨む伊藤陸=名張市春日丘の近大高専で】

三重県の名張から世界を目指す10代がいる。近畿大学工業高等専門学校(名張市春日丘)制御情報コース5年の伊藤陸選手で平成13年1月生まれの19歳。今月13日、新潟市で開かれた陸上競技の日本学生対校選手権(インカレ)男子三段跳びで自身の持つU20(20歳未満)日本記録を1センチ更新する16メートル35で2連覇した。身長185センチの長身で海外選手と遜色ない体格を誇る一方、筋力は「年相応」(陸上競技部の松尾大介監督)と伸びしろ十分。4年後のパリオリンピックはもちろん、来年の東京オリンピックの選考レースに絡む活躍も期待される。


新型コロナウイルス対策で予選、決勝合わせて最大4回のジャンプしか許されなかった今年のインカレで勝負強さを発揮した。試技1回目で出場19選手中唯一16メートルラインを超えて首位に立つと、優勝を決めた後の最終跳躍で自己新記録の16メートル35を成功。「記録には満足していない」と話す一方で「1センチだけだがベストの記録を出せて良かった。しっかり勝てたことも自信になった」と振り返る。

三重郡菰野町の小学時代から跳躍種目を中心に県大会や東海大会に出場した。全国レベルの選手に成長したのは近大高専入学後。現役時代三段跳び、走り幅跳びが専門の松尾監督の指導を受けて高専3年時の平成30年8月の三重インターハイで三段跳び5位、10月のU18日本選手権で走り幅跳びとの2冠を達成した。

三段跳びを中心に飛躍の1年になったのは高専4年時の昨年。U20日本記録を42年ぶりに更新する16メートル34でインカレ初制覇。五輪代表や世界選手権代表らも出場した日本選手権室内でも16メートル23のU20室内日本新を出してシニア初優勝に輝き、日本オリンピック委員会(JOC)の強化指定選手にも選ばれた。

高専1~3年時の練習は基礎体力の向上を目的にした走り込みなどが多かったが、4年以降筋力トレーニングの頻度を上げた。体幹、ハムストリング(太もも裏)を中心に筋力強化に励み、松尾監督も「踏み切った時、前に進む力は確実についている。助走のスピードも上がっているはず」と記録更新に自信をのぞかせる。

コロナ禍で春以降競技会の中止が相次ぎ、実戦を通じて感覚を取り戻している。インカレ1週間前には山梨県で開かれた富士北麓ワールドトライアルに出場した。今季の大一番はインカレと同じ会場で10月1日から開かれる日本選手権。「三段跳びは優勝、走り幅跳びも入賞を狙う。三段跳びで世界に出て行きたいと思っているので、かなり高い目標だけど16メートル70を目指していきたい」と闘志を燃やす。


松尾監督と二人三脚で練習を続けて5年目。高専3年時、4年制大学への進学も考えたが、「自分に合っている」と練習環境を変えない道を選んだ。県内では国立の鈴鹿高等工業専門学校に7年間在籍し、男子走り高跳びの日本のトップ選手に成長した衛藤昂選手=現AGF鈴鹿=がいる。松尾監督も「選手の状況により異なる」とした上で「選手の特徴が分かった状態で継続した指導ができるメリットもある」。

高専5年目は本科の最終年で再び進路を考える時期だ。海外遠征にかかる費用捻出などの課題はあるが、今後も名張から世界を目指していきたいという。「けがなく成長すれば世界に出て行ける」と素材に太鼓判を押す松尾監督も「筋力は時間とトレーニングでカバーできる。順調に成長し、地元から応援してもらえる選手になってほしい」とエールを送る。