2020年8月8日(土)

▼法律が無味乾燥なのは珍しくないが、水防法やそれに基づく水防計画は、その膨大な量に圧倒される。洪水または高潮に備えて水害を警戒、防御するのが目的で、組織・活動などについて定めているのだが、果たしてこれが現実的な話なのかで、いつも確信に至らなかった

▼県が伊勢湾沿岸で「想定し得る最大規模の高潮」が起こった場合の浸水想定区域図を発表した。先月の熊本豪雨で球磨川が氾濫し、球磨村の特別養護老人ホームで入所者14人が犠牲になったばかり。水防法で義務づけられた避難確保計画を作り年2回、住民とともに近隣への避難訓練をしていたが、真夜中の急変に入所者全員を2階に移すことさえできなかった

▼想定区域図は法改正に伴い、国の求めに応じ高潮による最悪の事態を想定して作成した。過去最大だった室戸台風(昭和9年)に過去最速の伊勢湾台風(同34年)を合わせ「500―5千年に一度」の台風が潮位の最も高い時に上陸したと想定しシミュレーションした

▼どういう場合、そんな組み合わせが起こるのか。現実感が薄れてしまうのはやむを得ないのではないか。過去最大がいつまで最大か、過去最速はいつまでか。温暖化で気候が大変動し、過去の被害想定が次々塗り替えられている中で「500―5千年に一度」も多様化していくのではないか

▼図をもとに今後市町にハザードマップの策定を促す。「自分の地域が危ない地点なのかを確認してほしい。普段からどこに避難したらいいか関心を持ってもらいたい」と県土整備部。期待は、ささやかということか。異存はない。