<まる見えリポート>東紀州・広域ごみ処理施設 建設予定地が二転三転

【東紀州5市町で整備を進めている広域ごみ処理施設の建設予定地として検討されている尾鷲市営野球場=同市矢浜真砂で】

東紀州5市町で建設を予定している広域ごみ処理施設の建設予定地が、二転三転している。三重県尾鷲市は、平成30年に廃止した中部電力尾鷲三田火力発電所跡地(同市国市松泉町)と、2カ所目の候補地に挙げていた中電所有の燃料基地用地(同市矢浜)をいずれも断念し、新たな建設予定地として、市と中電が所有する市営野球場(同市矢浜真砂)を検討していると発表。これにより、同市などが新たな産業の創出などを掲げ発電所跡地に構想している「おわせSEA(シー)モデル」事業への影響も避けられない状況だ。

5市町での広域ごみ処理施設の建設計画は、平成24年度から進められている。施設はメンテナンスの時間を除く年間約280日、24時間稼働させる予定。可燃ごみを処理する。広域で取り組むことで、ダイオキシンの削減など環境に与える影響が低減したり、建設費抑制などの利点がある。

現在、尾鷲市は同市清掃工場、熊野市は同市クリーンセンターで可燃ごみを処理。紀宝、御浜両町と熊野市紀和町から出た可燃ごみは御浜町の紀南清掃センターで、紀北町は町内の2カ所で、いずれもRDF(固形燃料)を製造。昨年、県企業庁のRDF焼却発電施設が終了したため、今は民間事業者が処理している。

尾鷲市清掃工場は平成3年の建設から29年が経過しており、5市町のごみ処理施設の中で最も古い。老朽化が進み10年以上前から毎年、約1億円の修繕費を投入している。熊野市クリーンセンターは平成7年に建設。こちらも老朽化のため26年度から毎年約8千万円の修繕費が使われている。

それぞれの市町のごみ処理施設の代替施設の更新が課題となる中、建設面積の確保の問題で建設予定地がなかなか選定されなかったが、平成30年2月、尾鷲市は建設予定地に発電所跡地を検討していると、初めて発表。同年11月に高さ58メートルのボイラー施設と30メートルの3号本館、両施設に隣接する定期点検用地を含めた区域を建設予定地として検討していると明らかにした。

その一方で30年8月、尾鷲市、尾鷲商工会議所、中電は、発電所跡地活用に関する「おわせSEAモデル協議会」を設立。昨年3月、3者は同協議会で、広域ごみ処理施設の廃熱を陸上養殖や植物工場に利用する構想案を発表した。

海抜4メートルの発電所跡地は津波浸水区域にあるため、市民らからは津波を不安に思う声が上がっていた。加藤千速市長は昨年5月、市内各地で市民懇談会を開き、自らSEAモデル事業の構想案を説明。「盛り土を使って津波を解消する。発電所跡地にごみ処理施設ができなければ事業が白紙になる」と述べ、市民らに発電所跡地にごみ処理施設を建設することへの理解を求めた。

ところが、発電所内のボイラー施設と3号本館は、はりと杭が使えないことや、盛り土工事などに多額の費用がかかることが明らかになる。このため尾鷲市は、中電が所有する同市矢浜の燃料基地用地を建設予定地として新たに追加した。

この2カ所を建設予定地として検討する中、尾鷲市は今年5月25日の市議会行政常任委員会で、選定していた2カ所を断念し、市営野球場を建設予定地の第一候補地として検討すると発表。盛り土などの付帯工事に多額の費用がかかることから、尾鷲市以外の4市町から合意を得られなかったという。

いまだに建設予定地が決まらない状況について、尾鷲市と紀北町の6月定例議会で質問が相次いだ。各市町の議員からは「候補地を転々とするのはやめてほしい。いくつかの場所を比較して、課題や経費を検討すべき」(尾鷲市議)、「紀北町単独で(ごみ処理を)する方が良い」(同町議)という意見が出ている。

また、建設予定地を首長会議で決定してから各議会に報告するため「議員らも含めて予定地を議論した方がいいのでは」(熊野市議、紀北町議)といった声も上がる。

広域ごみ処理施設から出る廃熱をSEAモデル事業に使う予定だったが、これについて加藤尾鷲市長は「市営野球場から熱や電気を持ってくるのは投資が必要となり、無理だと思う」と述べ、「9月末までに、より具体的な(SEAモデルの)計画を示したい」と話している。