2020年5月20日(水)

▼「遅れてきた正義は悪」とは言うけれど、芝居で言えばクライマックスに押っ取り刀で駆けつけて見えを切る場面か。元検事総長グループと続く元東京地検特捜部長らが反対の名乗りを上げ、検察庁法改正案の今国会での成立が見送られた

▼悪、すなわち後の祭りにならなかったのはめでたいが、せめて黒川弘務・東京高検検事長の定年延長を閣議決定した前後に声をあげられなかったか、というのは〝芝居〟を知らぬやからに違いない。出番をとちってはどんな名演技も台無しだ。機を見るに敏だったから効果抜群で、いいところを持っていけた

▼野党などと違い、検察OBグループのいずれも定年延長そのものは賛成、などと言わないのは分をわきまえているからか、定年延長自体、感心せぬと思っているからか。高齢化社会で公務員も定年延長が必要ということと、だから検察官も、ということとは少し違う気がする

▼強大な権限を持つ検察の人事に政治が介入できる仕組みにしてはその公正さが失われるというのが検察OBらの主張である。一方、強力な権限を駆使して逆に政治を混乱させたり、派閥抗争に明け暮れたことは歴史が証明している

▼裏金疑惑に絡んで大阪高検公安部長を逮捕したり、小沢一郎衆議院議員の国策捜査を開始したり。過去の悪夢が封印されているかどうか疑わしいケースは多々ある。起訴、不起訴を判断する裁判官類似行為をしながら、国民に理由を説明をしなくてもいい絶対的権力である

▼絶対的権力は絶対的に腐敗する―定年延長は、英国の歴史家ジョン・アクトンの箴言に逆行する。