<地球の片肺を守る>クイル州イディオファ編 人口爆発、差し迫る脅威

【人口250万人、子どもたちであふれ返るイディオファの街】

陸路による本格的な地方出張。その目的は、コンゴ盆地における森林減少の実情を、実際にこの目で確かめること。コンゴ民主共和国の首都キンシャサから約750キロ、想像を絶するような悪路と苦闘しながら、私たち一行は、今回の出張の目的地であるクイル州イディオファに何とか到着することができました(詳しくは前回参照)。

そして、出迎えた環境省の現地職員に「ロサンゼルス」まで案内してほしいと頼みました。その日の宿の名前が「ロサンゼルス」だったからです(笑)。ロサンゼルスはイディオファの町で一、二を争う宿とのこと。しかし残念なことに、電気は日没後の数時間しか使えず、シャワーはもとより、洗面の蛇口からも水は出てきませんでした。

さらには、宿の周辺には食事をとる場所が見当たらず、長旅で疲れ切った体にまさかの兵糧攻め…。仕方なく、飲み屋でつまみとして売られていたヤギ肉の切れ端を片手にビールを飲んでいると、後ろのテーブルに座っていた3人組から「おいお前、ちょっとこい!」とお呼びがかかってしまいました。

「面倒くさいなあ…」重たい足を引きずりながら話を聞きに行くと、驚いたことにイディオファ地区の行政官(知事のような立場の方)でした。お互い簡単なあいさつを済ませると、「イディオファは人口が250万人、面積は…」と彼は州の紹介を続けました。

彼との雑談の後、私はビールを飲みながら、行政官の「ある一言」が気にかかっていました。コンゴ盆地の周辺部に位置し、満足な道路すら存在しないイディオファの人口が、何と250万人だという話です。しかし、これは私自身が出張前にキンシャサで調べた統計書にも載っていた情報でした。

そして翌朝、私はその統計数値が全くの出鱈目(でたらめ)でないことを理解しました。ちょうど登校時間に当たったのでしょうか。町の広場に立っていると、あちこちから、制服を着てカバンやノートを抱えた子供たちが、どんどんと途切れることなくやって来ました。

今日は全校そろっての遠足の日なんかではないはずです。街中だけではありません。森に向かう道中でも、打ち合わせを行った村々でも、どこもかしこも子供たちであふれ返っていました。「人口が増加している」そんな生易しい感じではありません。「人口が爆発している」…衝撃的かもしれませんが、私の頭には、とっさにその言葉が思い浮かびました。

そして、私は出張前にキンシャサで出席した会合での、ある発表を思い出しました。テーマはずばり「家族計画」。森を守るため、人口急増を少しでも抑制することの重要性について、私たちは議論をしました。

いや、正直に告白すると私は「貴重な森林を守るために子供の数を減らしましょう!」などとばかげた話だ、心の中でそんなことを思いながら、会議での議論を聞いていたのです。

食料はもとより、薪や炭、そして現金収入…貧困率が9割近くに及ぶ彼らが日々生きていくために一体何に依存しているのか? 私は今、実際に現場に足を運んでみて、「地球の片肺」と呼ばれるコンゴ盆地の熱帯雨林にとって、今、何が差し迫った脅威となっているのか、その答えの一つを直感的に理解した気がしました。(つづく)

【略歴】大仲幸作(おおなか・こうさく) 昭和49年生まれ、伊勢市で育ち、三重高出身。平成11年農林水産省林野庁入庁。北海道森林管理局、在ケニア大使館、マラウイ共和国環境・天然資源省、林野庁海外林業協力室などを経て、平成30年10月から森林・気候変動対策の政策アドバイザーとしてコンゴ民主共和国環境省に勤務。アフリカ勤務は3カ国8年目。