<まる見えリポート>紀北町の有償運送 公共交通の空白解消へ

【紀北町営の公共交通「えがお」の実証事業で町内を運行する軽自動車(町提供)】

三重県の紀北町は17日から、高齢者らの移動手段の確保を目的に、町営の有償運送「えがお」の実証事業を始める。町が所有する軽自動車を使い町内全域を運行する。期間は8月16日までだが、終了後も町は利用者から聞き取りをして改善し、運行していく方針。

同町では平成28年に、町内で唯一運行していたタクシー会社が経営悪化を理由に廃業した。このため、町民らがタクシーを使いたい場合は、隣の尾鷲市のタクシー会社を利用せざるをえない。今回の事業は公共交通空白地域の解消や、JR紀伊長島駅を使う観光客らの2次交通手段としても期待される。

町は公共交通空白地域の移動手段の対策として、平成30年9月―12月、町内に16カ所ある公共交通空白地域の解消に向け、地域住民が空いている自家用車と時間を使って移動手段に困る人を送迎する「あいのり運送実証事業」の実証実験に取り組んだ。

あいのり運送では、バス停と駅が半径500メートル内にない空白地域のみの運行だったが、町は実験結果を踏まえ、今回の事業では運行範囲を町内全域に拡大した。

事業は、道路運送法の市町村有償運送制度で実施する。同法では、自家用車での有償運送は原則禁止しているが、この制度を使うと、有償で住民や観光客らの運送ができる。

軽自動車2台が町内全域を運行する。運転手は40―60代の6人。運行管理は三重交通南紀営業所(熊野市有馬町)に委託する。運賃は1回の運送につき10分600円で、5分ごとに500円が加算される。現金払いとし、友人や知人など、3人まで相乗りが可能。通常のタクシーより安い料金になっているという。

運転手は国交省が指定したテレビ電話を運行管理者とつなぎ、運行する前に顔色やアルコールチェックを行う。

運転手を務める塩﨑智代さん(46)は福祉タクシーで5年間働いた経験を持つ。「町の人と触れ合うことが好きなのでやってみようと思った。経験を生かして安全運転で走りたい」と意気込みを話した。

町企画課は今月、同事業の住民説明会を各地で開いた。20年前にミニバイクの免許証を返納したという同町東長島の女性(74)は「腰が悪く、家の前まで送り迎えしてもらえるので使ってみたい。ただ、希望通りの時間に来てもらえるかが心配」と語った。

同町東長島片上地区の水口義守区長(75)は「片上地区はバス停も駅も近くにないため移動が困っている人に利用してもらえるように、(事業を)継続してもらえたらいい」と話した。

運転免許センター(津市)によると、昨年の同町の65歳以上の運転免許証返納率は1・7%で、県内平均の2・5%を下回る。また同町の75歳以上の運転免許証返納率は3・4%で県内平均の5・3%を下回る。

同課は「事業を通して高齢者の免許返納を促進し、高齢者の事故を無くしていきたい。1人でも多くの方に利用してもらえるようにしていきたい」としている。