2020年2月16日(日)

▼児童相談所へ人工知能(AI)を導入する約1億2000万円を計上した三重県の新年度予算案を検証した本紙企画記事は「多くの課題を前に『全国初』の挑戦は続く」と結ぶ。やはり「全国初」が大好きだった北川正恭知事と、その〝負の遺産〟が思い浮かんだ

▼児相でのAI活用は、鈴木英敬知事も事あるごとに各方面に紹介する自慢の施策だが、県としては好んで獲得する「全国初」ではないという。中勢、南勢志摩両児相で昨年7月から実証実験を始め、結果を踏まえて検討することにしていたのに、結果をまとめる前に全児相への導入を決めた

▼見切り発車の理由は、令和4年度までに児童福祉司を26人増やす国の要請と、定年退職者増の中で、経験の浅い職員が増える見込みのためだという。新システムは職員が判断する補佐役ではなく「職員の経験不足を補って」もらう。職員がAIを使うのではなく、AIが職員を使う構図になるらしい

▼システム維持に毎年1億円ほど要するというのが現段階の見込みで、更新でさらに上昇する〝負の連鎖〟に陥るのも一般的だが、県は「維持費を下げるには、他の自治体にも同じシステムを使ってもらうよりほかない」。知事の〝自慢〟はセールストークでもあったか

▼県は「あくまでも最終判断は職員」としているが、経験の浅い職員がAIの判断に従って間違った場合、責任は「AIが、AIが」になりはしないか。精度担保には多くの事例をAIに経験させなければならないとも

▼職員の能力向上とAIへの経験蓄積と―県は二兎を追う。「薄氷」の挑戦が続きそうだ。