2020年2月15日(土)

▼「窮鳥懐に入れば猟師もこれを殺さず」という。6世紀末の中国で、流転の中で4カ国に仕え学問の名門貴族として生涯を終えた顔之推が子孫に残した訓戒『顔氏家訓』の一節▼全20篇のうちの省事篇にある。手間を省く意味だが、小さなことに心を奪われ、大事なことを見逃すなというのが精神。悪事への加担を戒めるが、窮鳥懐に入れば人格者は助けるとし、まして死士(決死の覚悟の者)が救いを求めてきたら見捨ててはいけないと説く。親友の危難には家財、尽力を惜しむなとも▼三重大付属小でいじめを受けた児童とその保護者に救いを求められ、県教委の廣田恵子教育長が「被害者の声を聞いて、いじめをなくさなければならないという思いを強くした」。三重大付属小は国立。「伝える」という言い方もできたはずだが、行政の垣根を飛び越えていじめの本丸に切り込んだ。窮鳥入懐の精神があったのかもしれない▼児童、保護者の訴えを聞いて、すぐ思い浮かぶのは、昨年6月の県立高3の女子生徒との類似性だ。ともに「重大事態」に認定され、法に基づいて調査委員会が報告をまとめたが、委員会の構成は有識者とは名ばかりで学校関係者が一定数を占めた▼寛容を被害者側に求めたことでも共通している。「保護者から相談を受ける度に、加害児童への指導などで対応」と付属小側。県立高側も対応は適切だったと言った。結果は問わない。そして「再び登校してもらえるようにしたい」。両者口裏を合わせたのかと見まごうばかり▼それだけに廣田教育長の言葉の違いに一筋の光を見る思いがする。