2019年10月5日(土)

▼かんぽ生命保険の不正販売問題を巡る鈴木康雄・日本郵政上級副社長(元総務事務次官)とNHK側との論争は、官僚機構同士のやりとりを垣間見るようで興趣が尽きない。情報提供を呼びかける動画について、NHK側は「取材を受けてくれるなら消す」と言ったとして、鈴木副社長は「暴力団と一緒」と発言した

▼東大寺の国宝の鐘楼にライトを固定するためクギを13本打ち付けたり、元理化学研究所の小保方晴子氏をトイレまで追い回してけがをさせるなど、強引な取材では定評のあるNHKの交渉としてありそうな話だが、それを受けてNHKの担当者が「大変丁寧に取材交渉をしたので驚いている」。散々攻撃した相手がどう自分らを見ているか、考えもしないとみえる

▼かつて全国紙3紙は山賊、海賊、ニセ紳士などの異名で呼び合った。世間からは〝インテリやくざ〟と呼ばれたともいう。経済雑誌などが企業の批判記事を載せ「次号続報」などと告知すると脅迫とみなされた。「続報」の予告が当事者にどれほどの心痛を与えるか。NHKなら衝撃波計り知れぬだろう

▼「暴力団」などのたぐいの呼び方は、報道機関のステータスが天にとどろくほど高くなった今、身内でかわすことはなくなったが、外部はまた別に違いない。「怖い」という反応は取材を申し込んだ相手からしばしば聞かれる

▼NHKの予算は国会承認のため、幹部が政治家に弱いことは番組改編問題でよく指摘された。総務省幹部でも変わるまい。鈴木副社長は事務次官当時とはかけ離れたNHKの対応にかちんときたのかもしれない。