<地球の片肺を守る>国家森林政策の大命

【停電の中で開催される国家森林政策の第1回会合】

「オオナカさん、留守中に次官がやって来ました」。外出先から戻った私にアシスタントが告げました。

環境省の事務方トップとして、国内外を飛び回り、在室中は来客が列をなす…そんな超多忙な彼が、たった数十メートルの距離とは言え、私の部屋に足を運ぶことは日頃あまりないことです。「何を相談したかったのだろう…」その夜、私はそのことが頭を離れませんでした。

そして数日後、次官室を訪れた私に向かって、彼は早速用件を切り出しました。「国家森林政策の策定を支援してくれないか?」、私はついに大命が下ったことを理解しました。なぜなら、着任あいさつをして以来、彼は幾度となく、世界有数の森林大国であるコンゴ民主共和国に森林に関する国家政策が存在しないことを私に嘆いていたからです。

今回、次官から支援を要請された「国家森林政策の策定」は、その名の通り、「地球の片肺」の運命を左右する大変重要な課題です。しかし、地域住民や木材業者、環境NGOから欧米政府に至るまで、国内外さまざまな関係者の利害や関心が複雑に絡み合う中で、これまでずっと成し遂げられずにいた、最も困難な課題の一つでした。

日頃、仕事を依頼されれば二つ返事で引き受けてきた私も、今回ばかりはさすがに安請け合いはできません。「検討する時間をいただきたい」と慎重に言葉を返し、次官室を後にしました。

その後、派遣元の国際協力機構(JICA)や援助関係者と話し合いを重ね、再び次官室に出向きました。多くの来客を待たせながら二時間近くも続いた議論の後、私は彼に対して「環境省自らが課題に取り組む強い決意をもっているのなら、一職員として政策の策定を支援したい」、そう伝えました。

私は支援に当たって、今一度、彼らの当事者意識(専門用語で「オーナーシップ」といいます)を確かめました。コンゴと言わず、多くのアフリカの国々では、私たちのような、いわゆる国際協力の専門家が「途上国政府を支援する」のではなく「途上国政府に代わって課題に取り組む」ようなケースが往々にして存在します。今回の課題は彼らに「オーナーシップ」がなければ決して成功しない、私はそのことをはっきりと認識していました。

それから数週間後、次官のリーダーシップの下、省内に「国家森林政策プロジェクト」が新たに立ち上がり、選抜チームが編成されると、私にもそのチームに加わるよう指示がありました。

早速、第一回目の打ち合わせへの出席依頼がありました。当日、交通渋滞で遅刻した私をメンバーの皆は待っていてくれました。少し張り詰めた程よい緊張感です。そんな中、チーム長は冒頭、「ここにいるわれわれの手で国家森林政策を策定しなければいけない。今回は失敗は許されない」と力強くあいさつしました。私はその言葉を聞き、コンゴのみならず、地球全体の持続性を占う上でも大変重要なこのプロジェクトに、メンバーの一員として関われることを大変うれしく感じました。