<地球の片肺を守る>勇気ある意見 熱帯林保全への課題

【TICAD7関連イベントでコメントするコンゴ環境省の次官】

ここ最近、南米アマゾンで深刻な森林火災が発生しているニュースが世界中を駆け巡っています。ブラジルの国立研究所が、森林火災などが原因で、この7月の1カ月間だけで、なんと東京都の面積を上回る2200平方キロもの森林が消失したと報告しました。

これに対して、多くの環境NGOが、森林火災の背景の一つは、ブラジルで新しく就任したボルソナロ大統領の消極的な環境政策によるものであると指摘しました。同大統領は地域の貧困を削減するため、アマゾン開発を主要政策の一つとして掲げていますが、それに後押しされた多くの人々が熱帯林を開拓するために火を入れているというのです。

こうした状況に対して、欧州の首脳が相次いで危機感を表明しました。フランスのマクロン大統領は「私たちの家が燃えている」とコメントし、この問題は彼自身が議長を務めたG7において最優先課題の一つとして議論されました。

一般市民のみならず、ローマ法王からハリウッドスターに至るまで、世界中の人々が対策の必要性について声を上げたことで、ブラジル大統領は、やむなく消火のために軍隊を急派しました。また時を同じくして、G7(先進国グループ)は対アマゾン緊急支援を合意しました。

今回のアマゾンの森林火災問題を通じて、熱帯林を適切に保全していくこと(専門用語で「森林ガバナンス」といいます)の困難さがあらためて浮き彫りになりました。今回、国際協力機構(JICA)では、タイムリーな話題となっている「森林ガバナンス」をトピックに、アフリカ開発会議(TICAD)で公開討論会を企画し、「地球の片肺」を管理するコンゴ環境省のトイランベ次官に出席を要請しました。

彼はイベントにおいて基調講演を行い、コンゴにおける森林政策の変遷を、この分野における日本の支援の成果も交えつつ説明しました。コンゴ政府として日本の国際協力をどれだけ評価し、そして大切に考えているか…その思いが真摯に伝わってくる素晴らしいスピーチでした。

そしてイベントが後半にさしかかった頃、司会は、コンゴ盆地の熱帯林を適切に保全していくための諸課題について、彼に意見を求めました。それに対し彼は、民間資本の参入が不可欠であること、そのためには汚職の防止、資金の適正な管理や安全の確保などへの対処が必要であると力強くコメントしました。

皆さんは、彼のコメントを当たり前だと思うかもしれません。しかし、私は大変勇気ある、また決意に裏付けられたコメントであると理解しました。実際、アフリカの政府高官が、この基礎的かつ最重要な課題について、公の場で真正面から言及したことを私は聞いたことがありません。

イベントが終わり、ホテルに戻るタクシーの中で、私は、彼のこの率直なコメントを高く評価したいと直接、彼に伝えました。彼は「多くのアフリカ人は自国が抱える問題の本質を話すことを好まない。そのことこそが問題だと感じている」と私に言いました。私は彼に「素晴らしい組織、同僚を支援できることが、私たち専門家にとって一番の喜び」だと続けると、彼は「ありがとう」と私の手を握りました。

【略歴】大仲幸作(おおなか・こうさく) 昭和49年生まれ、伊勢市出身、三重高校卒。平成11年農林水産省林野庁入庁。北海道森林管理局、在ケニア大使館、マラウイ共和国環境・天然資源省、林野庁海外林業協力室などを経て、平成30年10月から森林・気候変動対策の政策アドバイザーとしてコンゴ民主共和国環境省に勤務。アフリカ勤務は3カ国8年目。