<まる見えリポート>紀北町の木質バイオマス 発電事業巡り平行線

【バイオマス発電事業に使われる予定の建物=紀北町上里で】

【北牟婁郡】太陽光発電事業などを手がける「パワーエイト」(松阪市)が紀北町上里地区に計画している小型の木質バイオマス発電事業を巡って、事業を進めたい事業者と反対する住民の姿勢が平行線をたどっている。事業者側は「反対するならば明確な根拠を示してほしい」と主張。事業に反対する地元とその周辺の上里、河内、細野の計3地区の住民は「騒音や振動が基準以下であろうと、生活環境が一変する」とし、事業の撤退を求めて7月から署名活動に取り組んでいる。

同社によると、木質バイオマス発電事業は、同社が県内や奈良、和歌山に所有する約200万平方メートルの山林の間伐材を燃料に使用する。チップ工場を併設し、丸太をチップにした後、チップをいぶした際に出るガスを使って発電する計画。間伐材は年間5千トンを使用する予定。発電出力450キロワット、熱出力670キロワット。総工費5・5億円。事業には、ほかに土地所有者と機械メーカーの2社が携わっている。

パワーエイトは2年前から計画し、昨年11月に経済産業省に事業計画書を提出しており、許可が下りるのを待っているが、事業開始時期は未定という。

同発電事業は、町内を流れる船津川支流の大河内川沿いで計画されており、別の事業者が以前に汚染土壌処理施設を計画していた土地と建物を活用する。同施設は住民の飲み水となる上里浄水場の上流300メートルにあるため、住民が約5千人の署名を集めるなど反対運動を展開。町議会や町も動き、同施設計画は中止になった経緯がある。

その際町は、施設が町水道水源保護条例で定める「水質を汚濁させ、水源の枯渇をもたらすおそれのある事業」に含まれる規制対象事業場に当たるかを、有識者らでつくる町水道水源保護審議会に諮問。尾上壽一町長が審議会の答申を踏まえて規制対象事業場に認定し、事業を認めなかった。

現在も建物は同所にあり、同社はこの建物内に機械を導入したりチップ工場を建設したりして、バイオマス発電事業に利用するという。事業を行う上で、同省は「説明会の開催など、地域住民との適切なコミュニケーションを図る」ことを推奨しているため、同社は住民の同意を得ようと今年3月と6月の二度、上里地区で住民説明会を開いている。

森林組合おわせによると、尾鷲市、熊野市、紀北町の一部の未利用材は同町にあるチップ工場でチップにされ、年間1万5千トンが多気町にあるバイオマス発電事業に使われているという。森林組合は同社から材料の供給を依頼されたが、「多気町のバイオマス発電に納めているので安定した供給ができない」との理由で断っている。

事業に反対する住民側は「所有する山林から上里地区まで距離があり、事業が数十年も継続して行える見通しがつかない」「森林組合など地元木材関係者から一社も取引許可が得られていない」「計画のある土地の所有者が転々としていて不安」などを反対理由に挙げている。登記簿によると、土地所有者は26年から現在までで、二度変更している。

事業撤退に協力を求めようと、3地区の区長は7月18日に町役場を訪れ、尾上町長に要望書を提出した。現在は、集めた反対署名と事業撤退を求める嘆願書を事業者に送る準備を進めている。

町内の環境問題について取り組む柴田洋巳町議は「汚染土壌処理施設は住民の反対署名運動もあって止めることができた。バイオマスの反対署名運動も町全体に広げていきたい」と話す。

一方、同社は、町内の材木が町外でのバイオマス発電に活用されている実態を踏まえ、「町内の木を上里に運べば運賃もかからない。地元に根付いて事業をやっていきたい」と説明する。「住民の理解が得られないまま進めようとは思わない」と話すも、「これまで投資してきたのでやめれば損失が出る。(経産省から)許可が下りれば、事業を進める予定」と言う。

町は事業について「事業者は法に基づいた対応をしている。住民の気持ちも十分わかるが、町として動くことは難しい。ただ、相談事があれば、それぞれ相談に乗る」としている。