<地球の片肺を守る>キサンガニ編 コンゴ盆地の熱帯林開発

【コンセッションの貯木場に山と積まれた大木と筆者】

昨年末に帰国した際、東京駅の構内に300年ぶりに再建された興福寺中金堂のポスターが大々的に張り出されていました。そのお堂の柱、数十本がコンゴ盆地(カメルーン)から来ているとのこと。今回のキサンガニ出張で、そのコンゴ盆地の森林伐採の現場を見学する貴重な経験を得ることができましたので、ご報告させていただきます。

皆さんは「コンセッション」という言葉をご存じですか。「コンセッション」とは、公共物の所有権を政府が保有したまま、一定期間、事業の運営権だけ民間企業に売却する政策をいいます。日本ではこれまであまりなじみがなかった言葉ですが、最近は空港管理や水道事業などで、よく耳にするようになりました。

この「コンセッション」が、コンゴ盆地においても導入されています。コンゴ政府が民間企業に対して、ある区域の熱帯林を数十年間、開発できる権利を与える、というのが、その具体的な内容です。

私が今回視察した「コンセッション」の面積は4千平方キロメートル! 何と一企業がコンゴ政府から三重県の森林面積に匹敵する規模の熱帯林を伐採する権利を与えられ、木材を生産しているのです。

一般的に「コンセッション」を運営する企業は環境保護団体などから監視され、強い批判にさらされることも多いため、部外者による視察には消極的です。しかし今回訪問した企業は違いました。彼らは「この地域の森林資源が枯渇しないよう計画的に森林を伐採している」(専門用語で「持続的森林経営」と言います)と自信に満ちた態度で私たちに説明しました。

数百人を雇用し、学校や診療所の建設、道路の補修など地元に対する支援も積極的に行っているとのこと。こうして説明を受けている間も、大型トラックが「地球の片肺」で伐り出された巨木を満載し、どんどん貯木場にやってきます。

保護か伐採か…そんな単純な構図ではありません。こうした開発が生存すらままならない最貧困地域で行われていることが、さらに問題を複雑にしています。思えば私が高校生だった頃、盛んに議論されていたこの熱帯林問題が、私が大学で森林を学ぶ動機の一つとなりました。あの頃から30年近くが過ぎました。私はコンゴ環境省の政策アドバイザーという立場で、未だに解決の糸口が見い出せていないこの難題に、今一度しっかりと向き合っていかなければいけないことに気が付きました。