2018年8月8日(水)

▼百聞は一見にしかず、という。百回聞くより、自分の目で一回見る方が確かの意だが、東京高裁は栃木県今市市の小一女児殺害事件で、取り調べ段階の録音・録画で判断した一審の裁判員裁判を「違法」として破棄し、別の〝証拠〟で同じ量刑を言い渡した。一見は百聞にしかずと言わんばかりで、首をかしげた向きも少なくないのではないか

▼裁判員裁判の啓発に本紙も一役買って、法曹三者とフォーラムを何度か企画したが、実施主体の裁判官が趣旨説明、検察官が同調し、弁護士が懸念、問題点を提示する役回りだった。フタを開けると、裁判官の手際のいいリードぶり、検察官のグラフや写真を使った分かりやすい立件姿勢に対し、弁護側は旧態依然の書証中心の反証ぶりで、結果は量刑が重くなる傾向になった

▼録音・録画は検察官の証拠として申請された。一審は法廷で7時間も聞いたというが、それでも録音・録画したすべてではあるまい。裁判員が理解しやすいように最低限、重複部分や意味の取りにくい箇所を取り除いているに違いない。立証に不利な部分をあえて提出はしまいというのが検察の立証姿勢の常識でもある

▼取り調べの可視化は郵便不正事件などの不適切な取り調べを防ぐ目的で提案されたが、検察・警察は抵抗。見返りに司法取引など、捜査に有利な手法を認めさせた。災い転じて福へ。録音・録画も立証に有利な材料として利用しようというのだろう

▼映像は、目的以外をそぎ落とすことで伝えたいことをシャープにする。記事も同じだが、見た分だけ見せられたこととの区分が難しい。