「今回の選挙、非常に期待が持てる」。衆院解散の2日後に当たる9月30日の夜。津市内で選対本部会議を終えた民進党三重県連代表の芝博一は、記者らにそう語った。民進と希望の党が合流するという急転直下の事態に直面している中での発言だった。
芝は党代表を務める前原誠司の言葉を借りて「名を捨てて実を取る」と強調。「まさに今がチャンス。こう思ってわれわれも開き直って判断した。議論しても一緒」などと続けた。2時間の会議を終えて疲れ切っていたが、瞳の奥は自信に満ちあふれていた。
記者らは度肝を抜かれた様子でメモ書きを止め、芝に顔を向けた。「政治家とはこうも態度を変えるものか」。あまりの〝豹変(ひょうへん)〟に誰もがそう感じたはず。その1週間前、芝は市民連合みえのメンバーと懇談し、その蜜月ぶりをアピールしていたからだ。
芝が昨年の参院選で当選したのは野党共闘のおかげ。野党共闘を「芝方式」と呼ぶ県議までいるほどだ。先の党代表選でも野党共闘に前向きな枝野幸男に投票。野党共闘に慎重な前原が党代表に就任した際も「県内から野党共闘の流れをつくる」と奮起した。
そんな状況で安保法制を容認する希望を選べば、野党共闘が困難になることは自明の理だった。さらには当時、県内の民進前職らは希望か無所属かの判断を迫られている状況だった。それでも芝は、記者らに早々と「非常に期待が持てる」と語ったのだ。
その後、県内の民進前職らは相次いで無所属で出馬する決断をしたが、芝は公示日に発表した談話でも「私たちは二大政党制を確立させる手段として希望の党と合流し、政権交代可能な政党として選挙に取り組む」と語った。芝は希望の何に期待したのだろうか。
芝は記者らにこうも語った。「今はわれわれが唯一の注目を集めている。注目を集める限り、面白い選挙になる」。期待したのは希望そのものではなく、民進に対する「世間からの注目」だったか。これが「政局の芝」と呼ばれるゆえんなのかも知れない。(敬称略)
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衆院の解散直後から野党再編によって目まぐるしく情勢が変わる中で突入した今回の衆院選。県内の関係者らは激動のさなかで何を感じ、そしてどう動いたのか。各政党ごと5回にわたり、ニュースの裏側に迫った。