<地球の片肺を守る>キサンガニ編 支援待ち続ける熱帯林研究所

【国立植物標本館で説明を受ける筆者(左から2人目)】

ボンジュール! キサンガニ出張編の最後のコラムとなる今回は、コンゴ盆地の熱帯林研究の拠点であるヤンガンビ(Yangambi)への視察について、ご報告させていただきます。

ヤンガンビは、キサンガニからコンゴ川を下って100キロほどのところにあります。早朝、霧の立ち込める中、小型ボートでキサンガニを出発しました。時折、丸木舟に乗った漁民に出会う程度の、のどかなクルーズを2時間ほど続けると、突如、川岸に少し古ぼけた赤レンガの建物群が見え始めました。ヤンガンビです。

船着き場では、研究所のスタッフが私たちの到着を迎えてくれました。彼らは私たちを研究所本部まで連れていくと、照明がつかない真っ暗な会議室で、ヤンガンビでの研究活動について早速話を始めました。彼らの熱意が伝わってくる説明でした。

次は国立植物標本館です。世界でここにしか存在しないと言われる15万種にも及ぶ貴重な熱帯植物、木材の標本コレクションが年代物の棚にびっしりと整理・保存されています。

館長いわく「標本の劣化が進んでおり、デジタル化が急務だが、残念ながら機材がない」とのこと。何とか解決ができないものか…。短い時間でしたが、皆でアイデアを出して話し合いました。

最後の目的地は3階建ての立派な研究棟でした。「設立当時、ここではコンゴ盆地で最先端の研究が行われていたんだよ」と過去形で言われたことに首をかしげ、施設に案内されて腰を抜かしました。研究室には実験器具や設備が当時使っていたままの状態で放置され、荒れ放題となっていました。

電気もない研究所本部、貴重な資料の劣化が進む標本館、廃墟と化した研究棟…最先端の熱帯林研究を視察できることを楽しみにやってきた私の期待は無残にも打ち砕かれました。

今から遡ること90年、植民地時代にコンゴ盆地の熱帯林研究の拠点として産声を上げた伝統ある研究所は、独立後の独裁政権と度重なる紛争、国家財政の窮乏などの影響を受けて、まさに風前の灯となっているのでした。

最近こちらでは、南部アフリカをこれまで経験したことのない大型サイクロン、イダイ(Idai)が直撃したニュースが繰り返し報道されています。3000人を超える死傷者が発生し、コレラも流行し始めているとのこと。地球環境が急速に悪化し、人類の生存そのものが脅かされつつある現状と「地球の片肺」の研究拠点が、その存在すら忘れ去られ、衰退の一途をたどっていることは、決して無関係ではないという思いに至りました。

一日視察に付き合ってくれた研究所長との別れ際、私は無い無い尽くしの環境で研究を続ける彼を励まし、コンゴ盆地の熱帯林研究の厳しい現状を必ず日本に伝えることを約束しました。

【略歴】大仲幸作(おおなか・こうさく) 昭和49年生まれ、伊勢市出身、三重高校卒。平成11年農林水産省林野庁入庁。北海道森林管理局、在ケニア大使館、マラウイ共和国環境・天然資源省、林野庁海外林業協力室などを経て、平成30年10月から森林・気候変動対策の政策アドバイザーとしてコンゴ民主共和国環境省に勤務。アフリカ勤務は3カ国8年目。