-祖父の味受け継ぐ3代目 「最善のものを、今後も精進」- 「蜂蜜まん本舗」社長 水谷栄希さん

【「納得できる最善のものを目指して、今後も精進を重ねていきたい」と語る水谷さん=津市大門で】

 津市大門の「蜂蜜まん本舗」は、祖父の故勉さんと祖母の故貞子さんが家業の養蜂業の傍ら昭和28年に創業。蜂蜜まんの人気の高まりとともに、同40年ごろには養蜂業をやめ、蜂蜜まんの製造・販売1本に絞った。以来、津を代表する菓子として愛され続け、創業から66年目を迎えた。

 平成28年、母元美さん(71)を継いで3代目となり、同30年には、隣接地にそれまでの約4倍の製造工房とイートインスペースを備えた新築2階建て店舗に移転した。店頭販売に加え、津駅ビル内や河芸町道の駅などでも販売するようになり、1日平均3千―4千個と売り上げを伸ばしている。

 津市で生まれ、「栄えることを希(のぞ)む」との願いを込め、祖父が栄希(えいき)と命名したという。祖父母と母、叔母の5人家族の中で育ち、跡取り息子として礼儀作法を厳しくしつけられた。「食事は祖父が箸を付けるまで待つこと、見たかったザ・ドリフターズのテレビ番組も下品だからと禁止され、翌週、学校の友達との会話についていけず寂しかった」と振り返る。

 中学時代は、歴史小説や推理小説などに夢中になり、多いときは日に2冊を読破していた。「県外で視野を広げ、自立の精神を養う」という祖父の教育方針に従って、高校卒業後は千葉県の帝京平成大学に進学。親元を離れて下宿生活をしながら、情報学部経営情報学科で学業に励んだ。

 祖父から「卒業後、しばらくは社会勉強をしてこい」と言われ、外食産業に入社して3カ月後、祖父が亡くなった。知らせを受けてすぐに退社し、実家に戻った。大学の4年間、夏休みごとに帰省して祖父の手ほどきを受けてきたことが役立ち、悲しみに暮れる祖母と母、従業員らを励ましながら、祖父亡き後1週間で店を再開することができた。

 店長として、早朝から始める生地やあんの仕込みを日に数回、合間の仕入れ業務や配達などで1日があっという間に過ぎていく。40年以上も働きづめだった祖父への思いが押し寄せた。「もっといろいろ教わりたかった」「味見をして批評してほしかった」と遺影に語りかけた。

 妻優子さん(45)と1人娘の真奈さん(7つ)の3人家族。早く帰宅したときは、アニメアイドルに夢中の真奈さんの話に耳を傾け、夏休みには旅行するなど家族で過ごす時間を大切にしている。「子育ての傍ら、販売や従業員教育を担当して支えてくれる妻に感謝の思いを伝えたい」と話す。

 同28年、会長に退いた母を継いで社長に就任した。甘さ控えめのこしあんを、国産小麦粉と新鮮な鶏卵、祖父の本家から仕入れる蜂蜜などで作る生地に包んで焼き上げる伝統の味は、「昔懐かしいおいしさ」「津に来たらこれ」と、県内外から多くの人々が買い求めに訪れる。焼きたての蜂蜜まんを楽しみに、毎日訪れる常連客もいる。

 「20年やってきて、常に安定した味を提供することの難しさを実感している。納得できる最善のものを目指して、今後も精進を重ねていきたい」と語った。

略歴: 昭和48年生まれ。平成10年帝京平成大学情報学部卒業。同年、蜂蜜まん本舗入社。同18年、津青年会議所入会。同28年、蜂蜜まん本舗社長に就任。同30年、新社屋移転。