<まる見えリポート> 将来意向把握しマッチング 土地・建物所有者と事業者 津市活用促進システム

【空き店舗が目立つ大門大通り商店街。GW期間中でも人影はまばら=津市大門で】

空き店舗が目立ち、衰退が著しい津市大門・丸之内地区で、市は土地・建物活用促進のための新たな仕組みを構築した。将来的に土地や建物を売却したい所有者と、この地で商売などがしたい事業者をマッチングさせる「意向登録システム」を開発。市によれば、全国的にも例がないシステムといい、双方を結びつけることで土地の利活用を進め、長期的なまちの活性化を目指す。

市によると、同地区の土地の形態として各敷地は間口が狭く、奥行きも細長い土地が連なっている。そこに空き店舗や空き地が点在しており、土地の集約や再編、利活用が進まない一因ともなっているという。

そんな状況を打破しようと、市では令和4年度から6年度までの約3年間かけて、同地区に店舗や空き家などを持つ130件の所有者に意向調査を実施した。

一軒一軒たずね回り、「1回目ではなかなか〝本心〟を打ち明けてもらえず、4回足を運んで重い口を開いてもらった」(市都市政策課)ケースもあったとする。

そこで浮かび上がったのは、高齢化が進んだり、事業の跡継ぎがいない中で、いますぐ売却を決断できないが、将来的には「何とかしたい」「いずれ時期がきたら処分したい」などの声だった。

通常、不動産取り引きでは売却や賃貸をすぐに希望している物件のみが市場に出る。空き家情報バンクなども、すでに空き家になっている物件のみが登録される。

市では、市場では反映されない「将来的な意向」も把握し、長期的な視点で活用に生かせないかを模索。「大門・丸之内土地・建物活用意向登録システム」を構築することにした。

システムは所有者と、この地で事業展開を希望している事業者がそれぞれ登録する仕組み。所有者側は売却の意向や時期、希望する用途などを示す。事業者は希望の場所や事業内容を提示する。明確な時期や事業内容が決まっていなくても登録が可能だ。

登録をもとに、市が聞き取りなどを実施。双方の内容を十分に把握した上で、可能性のある情報を組み合わせ、取り引きにつなげていく。

市が意向を一体的に把握できるのが特徴の一つ。単独の店舗や土地だけでは利活用が進みにくい一方、まとまった土地の集約や再編も可能になる。「いますぐ売却を考えていなくとも、事業者側から具体的な提示があれば所有者の気持ちが動き出す可能性もある」(同)とし、利活用が一気に進むことも期待する。

また、市が情報を一元管理している点も利点という。各情報は、市が双方の同意を得た上でないと明かさないようにする。例えば事業者は、将来的な事業計画を明かすことをためらうことが多い一方、守秘義務が課せられる行政には提示してもいいと考える場合もあるとする。

とはいえ、実際の取り引き成立まで持ち込めるかは全くの未知数だ。あくまで意向段階からの登録のため即効性は低く、長期間を要する可能性が高い。衰退を食い止める施策としては後手に回る場合もある。

前葉泰幸市長は「大きなチャレンジだ」と述べ、「うまくいかないと『前葉は何にもできない』と批判されることになる」と困難が伴うことは認める。

■   ■

今月17日。同地区で地元の物産展やジャズなどの音楽フェスティバルが一堂に会するイベントが開かれた。普段、ひとけのない静まりかえったまちに大勢の人々が訪れ、活気づいた。お城前公園では14日から1カ月間、平日限定でキッチンカーが出店している。何とか賑わいを取り戻そうと、あの手この手で工夫を凝らしている。

【17日にイベントが行われた大門大通り商店街。大勢の人々で賑わった=津市大門で】

ただ、恒常的な賑わいの創出には、やはり空き店舗などの解消が不可欠だ。国道23号を利用したキッチンカーの出店では、国交省から「まずは空き店舗対策を」と物言いが付いた。その意味で、今回の意向登録システムは活性化に向けた本丸の、ようやく始まった一歩といえる。