「まる見えリポート」熊野古道伊勢路北部の世界遺産追加登録を

【ガイドの説明を受けながら熊野古道の馬鹿曲がりを歩く「伊勢から熊野へ190㎞巡礼旅」の参加者=大台町栃原で(大杉谷自然学校提供)】

NPOの大杉谷自然学校(大台町久豆、大西かおり校長)が企画した14回にわたる「伊勢から熊野へ190㎞巡礼旅」が16日、最終回を迎え、熊野古道伊勢路を歩き通した。「歩く旅」を楽しむロングトレイルとしての新機軸を打ち出すとともに、世界遺産に登録されていない伊勢路北部の追加登録を目指す。

江戸時代の巡礼者は、お伊勢参りを済ませた後、引き続き西国三十三所巡礼に出かけた。熊野古道伊勢路は、和歌山県那智勝浦町にある第一番札所、青岸渡寺へ向かう道だった。

同校は令和6年の「紀伊山地の霊場と参詣道」世界遺産登録20周年に合わせ、「熊野古道巡礼旅復活プロジェクト」を開始。同五年に熊野古道伊勢路を2週間かけて踏破する旅を実施し、同6年はインバウンド(訪日客)を対象とした熊野古道巡礼旅を催した。

今回は一気に歩かず内宮前から青岸渡寺までを14回に分け、2、3月の土日曜に散策した。最短は荷坂峠(大紀町―紀北町)の10・8キロ、最長は次の三浦峠・始神峠(紀北町)の17・4キロ。道中は各峠道の保存会がガイドを務めた。

単発でも参加でき、各回12―5人で、延べ111人が歩いた。県内外の44―76歳、33人(男13人、女20人)が申し込み、ほとんどが繰り返し参加した。2人が全行程を歩き通した。茨城県の参加者が尾鷲市の八鬼山峠にたたずむ巡礼供養碑に刻まれた住所を見て、「家のすぐ近くだ」と驚く場面もあった。

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熊野古道伊勢路のうちツヅラト峠(大紀町―紀北町)以南は世界遺産に登録されたが、最初の峠道の女鬼(めき)峠(多気町)など玉城、多気、大台、大紀の4町を通る伊勢路北部は外れている。その世界遺産への追加登録を目標に同プロジェクトは始まった。

大西校長(52)は「伊勢から熊野まで一本の巡礼路として価値を高めること」が欠かせないと考える。「アスファルト舗装のコースがあるが、巡礼路として一つの固まりだと考えていただくと、がぜん、価値が上がる」と語る。

また190㎞巡礼旅を通して、加齢とともに山登りが難しくなってきたハイカーや、それとは逆に運動不足の人たちという、「新しい顧客層が見えた」という。

馬越峠(紀北町―尾鷲市)や松本峠(熊野市)の日帰りハイキングが多いが、自然や歴史、文化に触れながら長距離を歩く「ロングトレイル」としての伊勢熊野巡礼旅を提唱する。

大台町は令和7年度当初予算に、町内にある熊野古道の馬鹿(ばか)曲がりや殿様井戸などの測量業務委託費として1856万円を盛り込んだ。いずれも良好な状態で保存され、県教育委員会が報告書を刊行するなど学術的な評価がされている。詳細な測量図を作り、国史跡などへの指定手続きを進め、世界遺産への追加登録を図る。

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同プロジェクトは巡礼旅の復活に加え、未来へ引き継ぐ目的もある。巡礼旅の前に、大台町内の熊野古道でボランティア整備作業と散策を組み合わせたツアーを3回開催した。

谷間沿いに大きく曲がる「馬鹿曲がり」では埋もれた道を掘り出し、投棄された家電製品を片付けた。殿様井戸で竹やぶを伐採し、宮川を渡る三瀬の渡しで景観をさえぎる樹木を枝打ちした。古道を巡回して整備に尽力している保存会の仕事を体験した。

今回の巡礼旅では、高齢のガイドが古道を手入れしながら頑張る姿に60代の夫婦が感動し、地元の多気町の保存会に入会している。

旅に同行した同校スタッフの張暁玲さん(28)は「熊野古道は歴史と文化に魅力があり、地元保存会のガイドに、より魅力がある。街道を歩くことが地域を知るきっかけづくりになる。地域に根ざして次世代を育成したい」と話していた。