<まる見えリポート>「入院なし」は7700円徴収 松阪市内3病院、安易な救急車利用激増で対策

【全国同規模の消防本部の中で突出して救急出動が多い松阪地区広域消防】

救急医療を担う三重県松阪市内の3基幹病院は6月1日午前8時半から、救急搬送されながら入院に至らなかった軽症患者から「選定療養費」として1件につき税込み7700円を徴収する。安易な救急車の利用に歯止めをかける狙い。松阪地区広域消防組合消防本部の救急出動は全国的に飛び抜けて多い。

選定療養費はかかりつけの医療機関の紹介状なしで受診した場合に払い、保険の適用を受けない実費負担となる。かかりつけ医の診療所などと、病床200床以上の拠点病院との役割分担を目指し国が制度化した。

3病院は済生会松阪総合病院(朝日町一区)と松阪中央総合病院(川井町)、松阪市民病院(殿町)。これまでも通常の外来診療では選定療養費を徴収してきた。6月からは救急搬送患者にも対象を広げる。軽症者に対して救急車の利用以外の選択を促し、救急医療体制の維持を図る。県内では伊勢赤十字病院が平成20年から取り入れた。

松阪地区広域消防は松阪市と多気町、明和町の約19万5千人を受け持つ。救急出動が増え続け、令和5年は1万6180件に上り、2年連続で過去最高を更新した。

【令和4、5年に連続して過去最多を更新した松阪地区広域消防の救急出動件数】

全国の同規模消防本部の中で最多。突出して多い。同四年の人口1万人当たり救急出動件数を見ると、松阪地区は793・2件で、次の埼玉県熊谷市の551・9件を大きく引き離した。

「救急搬送がパンクする危機感」から竹上真人松阪市長は同3年12月、3病院連絡会で対策の協議を依頼した。早期治療ができなくなり、助かるはずの命が助からない事態を危惧したという。医師会や消防を交えた作業部会が検討を進め、同5年12月に選定療養費を徴収する方針を固めた。

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松阪市が令和4年4―6月に実施した3病院に救急搬送された患者調査によると、平日昼間に救急搬送された患者の入院は50・6%だった。ほぼ半数に当たる入院なしの49・4%は診療所などで対応できた可能性がある。夜間・休日の救急搬送になると入院なしが62・9%に増えている。

選定療養費の対象は入院しない場合だが、明確な線引きは示されていない。徴収対象外として「入院に至った方」以外に紹介状持参者、公費負担医療制度対象者、「災害により被害を受けた方」「労働災害、公務災害、交通事故」「医師の判断による」を挙げている。

竹上市長は「救急車の有料化みたいな誤解がある。救急車を呼ぶのをためらうように言っているわけではない。苦しんでいるときには、ちゅうちょなく呼んでいただきたい」と呼びかける。一方、「中には本当に今でなくてはならなかったんですか。どう考えてもあしたでいいんでは、あしたにしてください、というケースがある」と訴える。

松阪地区広域消防の同6年の4月までの救急搬送は前年同期に比べ339件減っている。選定療養費導入の周知効果が出たのかもしれない。

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松阪地区広域消防の救急搬送が激増した令和4、5年、消防職員の逮捕が相次ぐという別の異常事態が発生した。

不祥事は、①同4年3月、松阪市の釣具店での万引で逮捕②同8月、高齢者宅への住居侵入・強盗容疑で逮捕③同10月、消防署内の仮眠室で休憩中の職員同士が性行為④同5年2月、同僚から家族トラブルの相談を受け、「探偵や極道を雇わなあかん」と言って500万円をだまし取った詐欺事件で逮捕⑤同8月、多気町の書店で万引―と切れ目なく続いた。

消防本部は再発防止に向け弁護士を含む調査チームを設置し、同5年5―11月、新規採用を除く全職員292人に対する聞き取りを進めた。調査報告を基に同6年2月9日付で懲戒処分13人と文書訓告24人の大量処分を実施。再出発を期した。

処分を公表した記者会見で松阪地区広域消防の管理者を務める竹上市長は「あまりにも短期間に不祥事が続いた。閉ざされた、人数の少ない組織。職員の資質というより職場全体の雰囲気、組織に問題があるんじゃないかと思った」と振り返った。

救急搬送の急増と不祥事の関係について尋ねると、「因果関係は証明できない。想像の世界になる」としつつ、「推測になるが、連日のハードさがある。職員は責任感が強いので、忙殺されて精神的に追い詰められ、不安定なところがあったのではないか」と漏らした。