2023年11月9日(木)

▼福島第一原子力発電所事故後、現地に支援活動をした児玉龍彦東大名誉教授がさまざまな論戦を展開していたころ、新聞協会の講演で「科学の世界では、少数派はガリレオ以来、名誉とされている」と語ったことに共感した。「ダーウィンの進化論を信じない国は信用しない」の言葉には世界の広さを再確認させられた

▼性同一性障害者の性別変更要件に手術を義務づけた法律を最高裁が違憲と判断する一方、外見規定などは高裁に差し戻した。現実社会は揺れているということか。同性パートナーがいる女性が精子バンクなどを利用した妊娠の診断を拒否する医療機関が複数あるという。科学者の一翼を担う医者としてどうか

▼育てることのできない親から匿名で赤ちゃんを受け入れる熊本市の慈恵病院については、医療機関でも賛否さまざま。行政ともしばしば摩擦を起こすが、同性パートナーの女性のケースについては、当事者団体から対応を求められたこども家庭庁審議官が「妊娠の仕方がどうであれ、産婦人科が診ないことはあってはならない」

▼「あってはならない」のは産科の診察拒否だけであるまい。要望は「婚姻の有無や妊娠方法にかかわらず、適切な医療を受けられる体制整備」であり、それに応えたコメントだろう。司法に続き行政も変化している

▼県内では、慈恵病院に一時預けられた女児が児童相談所で受け入れられた後、母親から暴行で死亡した。高校生がトイレで死産したケースもあった。妊娠の仕方がどうあれ、妊婦の保護、子どもの安全の体制整備を何より優先するのが医療機関であってほしい。