<まる見えリポート>倭姫宮100周年 内宮、外宮の創建伝承 11月4、5日に奉祝行事

【「大和姫皇女」と「山神」を描く「伊勢両宮曼荼羅」=「第62回式年遷宮記念 特別展 伊勢神宮と神々の美術」(霞会館、平成21年)から】

三重県伊勢市楠部町の伊勢神宮内宮別宮「倭姫宮(やまとひめのみや)」が11月5日、創建100周年を迎える。崇敬者でつくる倭姫宮御杖代(みつえしろ)奉賛会が開く秋の例大祭に合わせ奉祝行事を同4、5日に開催する。第11代垂仁天皇の皇女、倭姫は、「日本書紀」や「倭姫命世記」によると、天照大神を大和国から五十鈴川の川上に移して内宮を造った。

日本書紀は倭姫が近江、美濃両国を経て伊勢国に入り、天照大神から「可怜(うま)し(素晴らしい)国なり。是(こ)の国に居(お)らむと欲(おも)ふ」と言われて鎮座地を決めた。

倭姫命世記は巡行地を詳しく載せ、約20カ所が挙がる。鎌倉時代に作られたようだが、同書を収録する「日本思想大系19 中世神道論」(岩波書店)は「神宮の古伝承が包摂されたと思われる」と解説する。

中村幸弘氏は現代語訳をした「『倭姫命世記』研究」(新典社、平成24年)で、「これが神典かと思える楽しい読みもの」「神仏習合の過程を経たうえでの神道理論」「古代語と中世鎌倉時代語とが混在する文章」と紹介する。

倭姫は「貌容甚麗シ」とあり、「ミカホハナハダカヲヨシ」と読む。また「意貞(サダカ)ニ潔(イサギヨ)ク、神明ニ通ジ給へり」とある。ここから倭姫宮近くの皇學館大学女子寮は「貞明寮」と名付けられた。

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倭姫命は亡くなる前に神職らに対し、「伊勢二所皇太神宮は」「惟(こ)れ群神ノ宗、惟れ百王ノ祖也」と呼びかけている。この言葉を巡り高橋美由紀氏は「伊勢神道の成立と展開」(ぺりかん社、平成22年)で、「神宮は天皇のみならず天下万民の祖神を祭る社となる」「私幣禁断の社という閉ざされた神宮から、万民に開かれた神宮へ脱皮せしめようとした」と読み解き、中世伊勢神道の構想力を見た。

倭姫の姿は伊勢神宮を主題にした現存最古の絵画という「伊勢両宮曼荼羅(まんだら)」が捉えている。奈良市菩提山町の正暦寺が所蔵し、南北朝時代(14世紀)の作品。宇治橋の近くで「大和姫皇女」と「山神」と注記された2人が話し合っている。倭姫は赤い衣を羽織り、頭上の包みを両手で支えている。天照大神を示す鏡が入っていると思われる。山神は弓を持ち、内宮正殿の方を指差している。地元の神様のようだ。そばに「鏡」と書かれた岩があり、五十鈴川と朝熊川の合流地点にある内宮末社、鏡宮神社かもしれない。

絵には元寇の文永の役(1274年)直後に建てられた蒙古退散の祈願所「法楽舎」や合掌する四天王像が描かれているため、石井昭郎氏は「神仏あげて蒙古襲来を防がんとする目的で製作された」(「伊勢郷土史草」第49号、平成27年)と考証している。

密教の曼荼羅に伊勢神宮や倭姫を描き、神仏習合の信仰を表現している。外敵退散とは別に、寛容と共存の思想を見いだせる。

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倭姫命世記によると、倭姫は母親の日葉酢媛(ひばすひめ)のふるさと、丹波国の「魚井(まない)の原」から豊受大神を招き外宮も造った。京都府宮津市の天橋立北側にある籠(この)神社の奥宮、真名井神社とみられる。

籠神社宮司を務める海部(あまべ)家の海部やをとめ氏は平成30年、同神社が秘蔵する倭姫命世記の口語訳「倭姫の命さまの物語」(冨山房インターナショナル)を刊行した。「一般の倭姫命世記本にない記事を随所に見ることができます」(同書)という価値がある。

倭姫は夢の中で天照大神に「豊受大御神さまと共にひと所にいらっしゃらないのでは、お食事も心安らかに召し上がることができません」「伊勢の国へ遷(うつ)るようにさせてほしい」(同書)と教えられ、第21代雄略天皇に報告し、外宮が完成した。

伊勢市倭町の尾部古墳に倭姫が眠ると伝わり、宮内庁陵墓課が管理する。その近く、宇治の内宮と山田の外宮の中間に当たる倉田山に倭姫宮が創建された。

宇治山田市(現在の伊勢市)の市史によると、明治時代に伊勢神宮の大宮司らが倭姫宮の創設を政府に求め、大正4年に「宇治山田市長、市会の決議を以て奉祀の儀を宮内・内務両大臣に請願するに及び、民衆の声として漸(ようや)く当局の意を動かすものあるに至った」。

請願は「我が宇治山田市に在りては、命は実に2千年の昔に於て、我市繁栄の源を啓(ひら)かせ給へる産土神(うぶすながみ)」と訴えている。同7年に尾崎行雄らが建議案を衆議院に提出し、満場一致で可決。同12年11月5日に御鎮座祭を催した。

同時期に明治神宮(大正9年)や朝鮮神宮(同14年)ができている。戦前の神社は国営公営で、帝国の領域拡大で海外にも造った。倭姫宮は地元の期待を集め、宇治と山田の産土神(生まれた土地を守護する神)として祭られたところに特徴がある。