2023年9月5日(火)

▼台風7号による河川の越水で泥水が水田に流れ込むなどの被害が出た度会町で、一見勝之知事の視察を受けた中村忠彦同町長が「もう少し(早く)三瀬谷ダムの事前放流をしてもらいたかった」と言うと、知事も「もう少し早く(三瀬谷ダムの)水位を下げておけば良かった」

▼掛け合い漫才を聞くようで緊張感が薄れるが、三瀬谷ダムは県の施設ではない。県企業庁から中部電力へ平成27年に譲渡した。責任のない者同士のぼやきのようなもので、知事が事前放流のあり方を検討すると語ったのは中電と交渉するという意味か

▼災害の教訓というと近年では紀伊半島大水害があげられるが、伊勢湾台風を除いて、県にとっての近年の大災害は十人の死者・行方不明者を出した平成16年の集中豪雨だ。当時は県所有だった三瀬谷ダムの発電所なども水没し、ゲートは全開のまま開閉ができなくなった。復旧に二年をかけている

▼ダムは洪水調節機能はないから、放流は企業庁長が豪雨の中を現地に陣取り、目視で決断した。放流が下流に甚大な被害をもたらす可能性があるが、放流判断は水圧によるダム崩壊を避けることが第一だ。脂汗をかきながら水量をにらみ、決断したと語っていた

▼事前放流のマニュアルなどなかったのだろう。「使用されない設備が放置されたままで」というのは、移譲後に見学した時の中電側の説明だ。調整池の流木を自動的に陸に揚げる最新鋭設備も一度も使っていないのではないかと笑っていた。放流による二次被害が起きなかったのは幸運。いや発生は日常化していたのかもしれない。