北方領土問題「理解広げたい」 三重県内中高生ら北海道視察、元島民らの体験聞く

【北方領土の国後島を見た視察団参加者たち。後方奥が国後島=羅臼町の知床峠で】

北方領土の返還に向け広報・啓発活動などをしている「北方領土返還要求三重県民会議」(会長・田中智也県議)はこのほど、県内の中高生19人と教員らの「青少年等現地視察団」を、北方領土に隣接する北海道東部の根室市、羅臼町などに派遣した。参加者らは羅臼町の知床峠から北方領土の国後(くなしり)島を遠望したほか、元島民の体験談や地元根室高校生の出前講座を聞き、北方領土への理解を深めた。

現地視察は、青少年が領土問題や国際問題を身近に捉え、自分で考え行動する力を養うきっかけにするとともに、北方領土の返還要求運動を継承するのが目的。独立行政法人北方領土問題対策協会の支援で3年に1度実施してきたがコロナ禍で中断し、今回は平成28年夏以来7年ぶり。今月21―23日の2泊3日の日程で実施し、公募で集まった桑名市、木曽岬町の中学生15人と津市の県立白山高校生4人、教員ら計26人が参加した。

一行は23日午前、知床峠から約25キロ離れた国後島を眺め、全長122キロあるという島の大きさなどを目視で確認した。

22日には根室市の北方四島交流センターで、四島の一つ、択捉(えとろふ)島出身の鈴木咲子さん(84)の話を聞いた。鈴木さんは幼少期の終戦から間もない昭和20年8月28日、同島にソ連軍が侵攻してきた時の恐怖の体験を話した。軍人による略奪やその後の強制労働、島からの引き揚げ時に樺太に連行され経験した劣悪な環境での暮らし、墓参で島を訪れた際の変わり果てた故郷を見た衝撃と悲しみなどを語った。

【元択捉島民の鈴木さんに質問する中学生ら=根室市の北方四島交流センターで】

鈴木さんは「ロシアとウクライナの戦争を一日も早くやめてもらい、領土問題を話し合うテーブルにも着いてほしい。今一番願っていること」と言い、中高生らに「自分なりに勉強し、関心を持ち続けてほしい」と訴えた。

参加した中高生らは、侵攻してきたソ連兵の様子や、島に住んでいた時に好きだった場所、ロシア人島民との交流の様子などを活発に尋ねていた。

21日には同市総合文化会館で、北海道立根室高校の部活「北方領土根室研究会」の部員で2年生の近藤妃香(ひめか)さんによる出前講座を聞いた。

近藤さんはクイズを織り交ぜながら北方領土の歴史や、根室から始まった返還要求運動の概要、交流事業で島を訪れた体験などを話した。元島民の平均年齢が87歳と高齢化している現状を話し、「元島民がいなくなると北方領土問題が風化する。若い世代が立ち上がらなければならない」「一人でも多くの人に北方領土問題を伝えてください」と呼びかけた。

参加者らは、同世代の近藤さんへ熱心に次々質問を投げかけた。桑名市立光陵中2年の岡野真依さんは「日本とロシアがどういう関係になればよいと思うか」と、島での理想の関係を質問。曾祖母が国後島出身という近藤さんは「(北方領土は)今住んでいるロシアの人にとっては故郷だし、(自分の)ひいおばあちゃんにとっても故郷。お互いの故郷に、住むのは難しくても、互いに共存、行き来できたらと思う」などと答えた。

一行はまた、22日午前に北方領土の歯舞(はぼまい)群島・貝殻(かいがら)島から3・7キロと最も近い根室市の納沙布岬(のさっぷみさき)を訪問したが、夏季に頻繁に発生する霧のため、島を見ることはできなかった。同岬では、領土に関する資料を展示する北方館を見学し、岩山幸三館長の話を聞いた。

【北方館で岩山館長の説明を聞く中高生たち=根室市納沙布で】

岩山館長は、模型を使って日ロ国境の位置などを説明。戦後沖縄は日本に返還されたが北方領土は「日本人が戦後誰も住んでいないため、昭和22年から何も変わらない状態。私たちが頑張らなければ」「今日ここで聞いたことを学校に帰って友達に精一杯話してほしい。日本の領土だと、大きな声で伝えてください」と語りかけ、参加者らは熱心にメモを取っていた。

終了後、桑名市立長島中3年、重本晃輝(こうき)さんは「いろんな人が真剣に北方領土問題に取り組んでいて、元島民の平均年齢は87歳。今回のことを踏まえ、若い人が学校や家族にもっと広げていきたいと思った」と感想。

岡野さんは、北方領土が「日本かロシアかどちらかのものになるという思いしかなかったが、(視察を経て)日ロ両方の人の故郷として、両方が自由に行き来できる、より大切な場所になったら良いと思った」と話していた。

【根室高校生の出前講座を聞く視察団=根室市総合文化会館で】

同協会などによると、北方領土は北海道本島の北東洋上に連なる歯舞群島、色丹島(しこたんとう)、国後島、択捉島の四つの島々。日本固有の領土で、第二次世界大戦終戦時の日本人居住者は約1万7300人。大戦終結の時期にソ連軍が侵攻して日本人を強制的に追い出し、現在もロシアが法的根拠なく占拠し続けている。現在は約1万8千人のロシア人が住む。日本政府はロシアの法律に従う形で入域しないよう国民に要請。交流事業や墓参もコロナと、ロシアのウクライナ侵攻で令和二年度から中断している。