<夏の高校野球・監督交代>㊦ 松阪商・阪口主将、新旧監督の思いを胸に 

【バットを振り込む松阪商の阪口遼楽主将=松阪市豊原町の同校で】

夏の三重県大会開幕まで、4カ月を切った今年3月半ばのことだった。県立松阪商業高校野球部の正捕手で中軸打者の3年生阪口遼楽主将は、前監督の北村祐斗教諭から、春の異動で津東高校への転任が決まったと伝えられた時のことを覚えている。

「練習試合の(ウオーミング)アップの前、全員集合させられて。いつもやったら〝動き緩い〟とか叱られるんですけど、今日は怒られることないしなと思っていたら〝急きょ代わることになったんや〟って」。うつむくチームメートもいる中「これからは自分がしっかりせやな」と考えていた。

1959年以来の夏の甲子園出場を目指している同校。打力の向上で古豪復活の足がかりを作った元監督の冨山悦敬氏に続いて、2017年に当時28歳の北村教諭が赴任して以降、県大会上位校の常連となった。

19年秋の監督就任後は20年の県独自大会ベスト4、21年夏の県大会ベスト8、22年夏の県大会ベスト4と安定した成績を残してきた。松阪市内の硬式野球チームに所属した時期もあった阪口も地元の公立校で甲子園を目指したいと進学を決めた。

昨年秋からは主将を務めている。三重高校で中軸打者として鳴らし06年夏の甲子園に出場、その後立教大に進み学生コーチとして指導者の基礎を学ぶなど強豪で揉まれた北村教諭。時として厳しい指導もある中、持ち前のリーダーシップでチームをまとめ上げてきた。

「いつも怒らしてばっかりだったんで、最後くらい、笑顔で終われるように」。3月21日から4月1日まで行われた春の県大会南地区予選は北村教諭の母校の三重など破って優勝し、松阪商で最後の采配となった同教諭の花道を作った。

野球部の新体制が始まってからは、進んで叱り役を買って出ている。普段の練習から仲間の動きに目を光らせ「動きが緩い」「段取りが悪い」などと声を張り上げる。

それでも1人ではないと感じている。3月まで副部長を務めていた五十子幸成新監督は3年生の自分たちの自主性を尊重し、温かく見守ってくれる。

学校を去った前監督の思いも伝わる。雨で一度流れた今季2回目の津東との練習試合が夏の県大会直前の今月6日に決まった時は「北村先生、ぼくらを見たいんだな」と直感した。

4月16日に行われた今季最初の練習試合は17―0の圧勝だったが主砲の自分が深刻な打撃不振だった。試合後は「お前やったらホームラン打ってくれると思っていた」と軽口交じりの激励を受けた。

2度目の練習試合は前回同様大差で勝ち、個人としての目標は本塁打を1本打ちたい。それが、最後の夏を前にした最高の恩返しだ。