2023年3月3日(金)

▼「東風(こち)吹かば匂ひおこせよ梅の花あるじなしとて春な忘れそ」は菅原道真が太宰府へ左遷される前に詠んだとされる有名な和歌。道真が庭で育てた梅の木に語りかけたというが、子どもの頃見た教科書の挿絵は門前の梅だったので小さく、同じ頃教え込まれた「桜は満開」「梅は一輪」が日本の美、という説を信じ後年、津市・白銀の梅林や奈良・月ヶ瀬の梅並木を見た時には驚いた

▼認識のよりどころだった「梅一輪一輪ほどの暖かさ」(嵐雪)も、改めて学ぶと「梅一輪」の美しさをたたえているのではなく、一輪咲き、また一輪咲いて春がやってくるの意で、三寒四温と同義のようだ。季語の梅は一般的に春だが、梅一輪は、したがって晩冬になり、歳時記によっては揺れもみられるという

▼咲き誇る梅の便りもしばしば。鈴鹿市山本町の研究栽培農園「鈴鹿の森庭園」のしだれ梅の見事な咲きぶりが紙面に踊っている。3月いっぱいはライトアップされる。風はまだ冷たいが、そぞろ歩きで眼福を楽しむ人も多いのではないか

▼桜は日本人好みなのに対し、梅はちょっと気取って漢学趣味などともいわれた。平安時代中期頃までは「花」と言えば桜ではなく梅を指したという。和歌好みでもあったか。写真で見る限りそう変わらないから、やがて梅も「満開」などと表現されていくのかもしれない

▼鬼と言われた幕末の新撰組副長、土方歳三も俳句好きで梅好み。京都へ向かう時ものにした「豊玉発句集」に梅の句は多く、巧拙はともかく、中で有名なのは「梅の花一輪咲いても梅は梅」。信念の人らしい気はする。