<まる見えリポート>伊勢市クリエイターズ・ワーケーション コロナで想定外も好評

【作品と向き合う井原さん=伊勢市内で(本人提供)】

全国で活躍する芸術家や文化人を三重県伊勢市に招き、将来の観光誘客につなげることを目的に令和2年度に始まった「クリエイターズ・ワーケーション促進事業」。コロナ禍への対応を見据えてスタートした事業だったが、感染拡大に伴う行動制限に阻まれる形で2度の延長を余儀なくされた。市は今年度を最後に再延長はしない方針だが、いまだ来訪のめどが立っていない参加者もいる。

事業は新型コロナウイルス感染症の全国的な拡大を背景に、消費が落ち込む伊勢市内の観光業の活性化につなげることを目的に令和2年11月にスタート。県内でも初めての取り組みで、ワークとバケーションを組み合わせた「ワーケーション」を試験的に取り入れたことも関心を集めた。

参加クリエイターには市内27カ所の宿泊施設と希望に応じた創作活動の場を提供。1週間から最長2週間滞在してもらい、終了後には滞在記を提出してもらう。参加者には宿泊料(1泊上限2万5千円)と1人5万円の滞在支援金が支給される。予算総額2468万円を計上した。

当初50人程度を想定していた参加枠には全国から応募が殺到し、最終的には1271人の応募の中から92組132人を選定した。俳優の松尾貴史さんや歌手の相川七瀬さん、演出家の宮本亞門さんなど著名人も名乗りを上げ、大きな話題を集めた。

しかし、開始間もなく緊急事態宣言発令に伴う県境をまたいだ移動が制限されたことで、参加者の滞在スケジュールが大幅に変更。当初は令和2年度中の終了を予定していたが、年度をまたいで2度の延長を余儀なくされた。今月11日現在で58組80人が来勢したが、28組38人の予定は未定としている。

同市観光誘客課の冨岡由紀課長は「コロナに左右されて受け入れがうまくいかなかった。状況が悪い中で来てもらうわけにもいかず、お招きを中断させてもらうこともあった。忙しい人も多くその後のスケジュール調整が難しい。こうなるとは想定していなかった」と対応の難しさを吐露した。

■   ■
これまでの参加者はコンテンツ配信サービス「note」への投稿や、イラスト日記の発刊、雑誌へのコラム掲載などを通じて滞在の様子を発信している。このほか個展や公演会、体験イベントを通じて地域住民と交流を図る事例もある。

伊勢神宮外宮前の外宮参道では昨年11月15日、東京を拠点に音楽活動を続ける2人組アーティスト「The Vegetables」によるインスタレーションイベントが開催された。外宮参道に立ち並ぶあんどんに設置されたスピーカーを通じて、2人が伊勢の滞在中に作曲した音楽を流し続ける空間芸術イベントで、QRコードを活用して期間限定で音楽を配信するサービスも取り入れた。

外宮参道発展会の山本武士会長(60)は「自分たちにない発想で盛り上げてもらい、訪れる人の反応も良かった。民間行政一体で文化や芸術を受け入れる場として今後も違う形で続けてもらえたら」と話していた。

大阪府出身で現在都内を中心に彫刻家として活動する井原宏蕗さん(34)は、令和2年12月上旬から12日間を伊勢市で過ごした。藻類の一種である「イシクラゲ」を取り入れた作品づくりに向け、滞在中は採取に伴う市内散策や、それを素材とした紙すき体験会を伊勢和紙館(大世古1丁目)で開催するなどした。

滞在を機に知り合った様々なジャンルのクリエイターと4人で11月19日から伊勢河崎商人館(河崎2丁目)で作品展示会を予定。同23日にはいせ市民活動センター(岩渕1丁目)で市内芸術家を交えたシンポジウムにも参加する。

井原さんは、「短い滞在だったが多くのことを体験できた。これをきっかけにできたつながりもあり、新たに帰る場所ができた」と評価。一方、「伊勢の文化レベルは高いが、常設で作品を受け入れてくれる施設は少ないという印象。一過性のものではなく、参加者がまた戻って活動の成果物を発表できるような仕組みを作れれば意義があると感じる。伊勢への恩返しとして、そのお手伝いをしていきたい」と話していた。