「まる見えリポート」鈴鹿消防、スマホ活用した映像通報実証実験 被害軽減、救命率向上へ

三重県の鈴鹿市消防本部はこのほど、スマートホン(スマホ)を活用した映像通報システムの実証実験を開始した。期間は9月30日まで。機能性や運用効果を検証し、10月からの本格運用を目指す。

同システムは、119番通報した人のスマホを利用し、通報者が撮影した映像を消防本部へ伝えることができる仕組み。同様のシステム導入は津市消防本部、三重北消防司令センターに次ぎ、県内3番目となる。

同システムの導入により、通報者が撮影する災害現場の映像を同本部が正確に把握することができるとともに、通報者に対して同本部から適切な応急手当の方法などを伝えることができるため、救命率向上や被害軽減、迅速な現場活動に役立つという。

率先して導入計画を進めた消防課の村田暢彦さんは「先行事例を見て、市でも絶対に必要な取り組みだと思った」と話す。

4月27日の実証実験から約一カ月が経過した。市消防本部によると、これまでに火災2件、救助2件、救急五件で20―60代の通報者、計9人に協力を依頼。そのうち60代の1人はスマホの操作方法が分からず、映像送信に至らなかったという。

通話時間は1分程度をめどに、素早く必要な情報を収集する。

「自宅から白い煙が見える」との通報では、通報者に撮影してもらった映像で煙の状況を確認。建物火災ではないようだと判断し、出動体制の人員を考慮。結局、現場でごみを燃やしていたということが分かり、大事には至らなかった。

交通事故の通報では、映像で意識の有無など負傷者2人の状況を把握。具体的な場所の特定もでき、迅速な対応につながった。

情報指令課の飯田行信課長は「状況を口頭で聞きながらしっかりと映像確認することができるので適切な対応につながる。また、GPS機能によりピンポイントで場所の特定ができるので、一刻を争う時にはメリットが大きい」と話し、「今のところデメリットはないが、今後の課題として、通報者が撮影する行為に他者が不信感を持つ可能性や、個人情報が映ることで問題に発展する可能性があるかもしれない」と、適正使用に向けたマニュアル作成も進める。

百聞は一見にしかず。システム機器が集まる同本部の情報司令室で、記者も通報者として映像通報によるスマホの操作を体験させてもらった。

人生初の119番通報での操作は、そばで見守ってもらいながらも緊張した。元々スマホを使いこなしているわけでもなく、専門用語は分からない。果たして消防からの指示が理解できるのか。

不安だったが、思い切って通報した。電話口で「緊急通報時は誤操作で通話が切れることはないから大丈夫」と温かい声をかけてもらい、ひと安心。後は言われるがまま、画面と電話の声を頼りにショートメッセージの送信やシステム起動など無心で進め、撮影を開始。撮影した映像はリアルタイムで本部に伝送されており、通話しながら情報共有できることに「一人ではない」という心強さを感じた。

電話種別の119番通報の割合は、平成30年が一般電話2706件(20・5%)、携帯電話6746件(51・5%)、令和2年は一般電話1949件(16・7%)、携帯電話6314件(53・9%)。携帯電話を使った通報が過半数を占め、年々増加しており、今後も積極的な活用が期待できる。通報者との対応にあたる情報指令課の林貴之さんは、「本格運用に向けて、素早く見て的確に判断できるよう訓練していくとともに、操作方法の説明をさらに工夫していく」と話した。

【実証実験が始まった映像通報システムに対応する消防職員ら=鈴鹿市飯野寺家町の市消防本部で】