2021年12月4日(土)

▼農業に対する思いを県議会で聞かれて、一見勝之知事は「農家に育った者として、農業の活性化に向けた取り組みを進めたい」。またまた、自身の体験を軸に、思いを答弁した。課題に触れないのは、特に言うべき言葉がないせいか。菅義偉前首相も就任前後、秋田の農家の出身をよく口にしていた

▼もっとも、知事の半生が、問わず語りに県内農業の現状を話している。農家に育ったのは進学率の高い私立高校まで。東大法学部入学から運輸省入省してこの7月辞職するまでの31年余、東京中心にキャリアを積んだ。9月の知事選に立候補が決まらなければ、県に戻ることはなかったに違いない

▼後継者不足など、農家の悩み、農業衰退の最大の要因を、反面教師として身をもって体現している。東京の大学へ進学した理由、官僚への道を選択したわけ、農業を継承しようとしなかったのなぜか―など。自身の体験を掘り下げればおのずと問題点が浮き彫りになり、解決策も見えてくるのではないか

▼農家体験がなかったせいかどうか。前知事の農業政策は「もうかる農業」であり、「食」の関連産業としての、いわゆるグルメ需要の先取りとしての農業で、異業種との連携、取り込みなど、目先を変えた新規開拓を好んだ。狙うは海外や大消費地。「県内の農業は多くの食材を私たちに届けてくれている」という一見知事の視点とは異なる

▼自身が果たせなかった夢を果たせるか。人口減対策についてあらゆる手立てを取るとしたが、掲げた例の中に農業はなかった。地に着いた農業振興策まで、まだ少し時間がいる。