2021年9月18日(土)

▼総理官邸を強襲した海軍の青年将校たちの銃口を前に、犬養毅首相は「話せばわかる」と言い、海軍将校が「問答無用、撃てっ」と引き金を引いた。昭和7年の五・一五事件の有名な逸話だが、犬養もまた、批判に一切弁解せず、説明をしない政治家だったという

▼「実にカッコいい政治家なんです。反論せず、弱音を吐かない。それが人としての美徳なのだ、と。政治家として『男気』としか言いようのない気概」を持っていたと、伝記を書いた堀川惠子さんが語っている。「男は黙ってサッポロビール」とCMで国際的スター三船敏郎が語る時、世の男性はこれぞ「男」と憧れた。今も人気の衰えぬ高倉健も、その理由は冗舌な実像とは違う寡黙な姿と言われる

▼女性を見たら声を掛けるのが礼儀というフランスは知らぬが、南スペインのリゾート地コスタ・デル・ソルで、いつまでも沈まぬ太陽の下、砂場に横たわったたくさんのカップルのうち男性が、何時間も、何時間も、女性に話しかけているのを見た。口説いているに違いない。その開放的な雰囲気を撮影しようとした日本のテレビが不審者として通報された。プレーボーイとガードの固い女性とで成り立っているという社会の仕組みを垣間見た気がした

▼上川陽子法相が性犯罪の処罰の拡大を法制審議会に諮問した。平成28年の法改正で強姦罪が強制性交罪に名称変更されたが、「強制」の解釈で被害者や女性団体などから実態に合っていないと批判され、法務省検討会では「えん罪を招きやすい」の反論もある。「男は黙って」は、今も「カッコいい」か。