<まる見えリポート>鈴鹿の特養、障害者雇用推進 長所生かし、障害者と協働

【機能訓練指導員として入所者の状態を確認する木村さん(左)=鈴鹿市若松西6丁目の特別養護老人ホームくすのき園で】

三重県鈴鹿市若松西六丁目の特別養護老人ホーム「くすのき園」(鈴木あおい施設長)は、障害者の法定雇用率(現在2・3%)の2倍を超える積極的な雇用を推進し、障害者実雇用率は5・9%となっている。職員約百人のうち、現在は視覚障害や発達障害などの5人が働き、平均勤続年数は6年。9月の「障害者雇用支援月間」を前に、施設の取り組みを取材した。

精神保健福祉士の資格を持つ鈴木施設長(62)は「障害者を積極的に受け入れようとか、意識はしていない」と現状を説明。「お互いさまの気持ち。変にいたわられると、本人も続けにくい。長く働いてもらうためには、困っていることは手伝うし、手伝ってもらう。そんなことの積み重ね。個々の特性を生かして、適材適所で働けるよう支援していくだけ」と話す。

機能訓練指導員として約10年勤務する津市河芸町の木村崇之さん(40)は、「網膜色素変性症」という進行性の視覚障害がある。

成人後急激に悪化し、現在は視野狭窄や夜盲などの症状で「全体的にもやがかかり、ぼんやりと見えるような状態。人の表情などは分らない」と話す。

入社当初は最寄り駅から施設まで職員が付き添い、約20分ほどの道のりを耳や感覚を頼りに覚えた。夜はさらに見えにくくなるので、夏と冬は出社や退社時間を30分ずらして調整する。

1日約20人の入所者に、歩行訓練や関節を動かすためのマッサージなどを施術する。木村さんは「重症の人も多く、自分に置き換えた時にどうした方がいいかを考えて接している」と話す。

鈴木施設長は木村さんについて「見えていない分、利用者の心を的確につかむ能力に長けている。相手のやる気を引き出すのが上手い」と適性を認める。

発達障害の一つ、アスペルガー症候群の20代女性職員は、清掃作業や食器の片付けなどを中心にする。2つのことを同時に進めるのが苦手という障害特性があるため、慣れるまでは1つずつ仕事の手順を伝えるなど、施設側は集中して仕事ができる環境づくりに配慮した。

鈴木施設長は「こだわりが強い分、細かいところまで目が届く。施設の浴室は古いが、カビ一つないきれいな状態を保つことができているのは彼女のおかげ」と話す。

適材適所の視点は、障害者だけに向けられたものではない。「女性だけど男性として雇用して欲しい」と面接時に話した50代職員には、狭かった男性更衣室を広く改修し、介護職で採用した。鈴木施設長は「細やかさを持ちながら力もあるので、今ではすっかり頼りにされている」と評価する。

80代の職員は介護士としては体力的に難しいが、長年の経験を生かし、相談役として利用者とコミュニケーションを図る。鈴木施設長は「利用者とほぼ同年代のため信頼も厚く、他の人にはまねができない存在」と話し、職員はそれぞれの長所を生かして業務を全うする。

鈴木施設長は「これからも、同じスタンスでやっていくだけ」と話した。

施設を運営する社会福祉法人慈童会は6月、障害者雇用に取り組む優良な中小企業として三重労働局の「もにす認定」を受けた。

同局の「令和2年障害者雇用状況の集計結果」によると、県内の民間企業の障害者実雇用率は2・28%。前年から0・02ポイント上昇した。ハローワーク鈴鹿管内では2・02%で、県全体の平均を下回る。集計時(令和2年6月1日現在)の法定雇用率は2・2%。

ハローワーク鈴鹿の大平博章所長は「北勢地域では初の認定。地域のロールモデルとして、障害者雇用の発展に貢献してもらえると期待している」と話した。