2021年8月7日(土)

▼鈴木英敬知事の好きな故事・名言の類いで言えば「去る者は追わず」とでも言うのだろうか。「自分から離れて行く者は強いて引き留めず、無理強いはしない」。孟子の言葉で「来る者は拒まず」と続き、来るも去るも自由の意味に使われるが、この場合は、その気になっている者に無理強いしてもどうなるものではない

▼鈴木知事は次期衆院選のために辞職を決断したことについて「悩みに悩みに悩んだ。大きな葛藤もあった」。が、県職員は「いつかは出ると皆が思っていた。驚きは全くない」「もう少し良いタイミングはなかったか」。本人の言うことを誰も信用していないということだろう

▼「多くの首長や医療関係者、商工会議所などから出馬要請を受けた。地域の熱い気持ちを重く受け止めて覚悟を決めた」もそうだ。知事自身は辞職表明の舞台を整えたつもりだろうが、6月県議会の「任期を全う」からこの日までに、考えが変わったと思う人はいまい

▼東京にも後援会を置くなど、その活動に熱心だったし、伊勢市の後援会長が県監査委員に就任するのに鈍感だった。この日を想定してと思えばふに落ちる。東北大震災のがれき処理に熱意を示しながら、反対されると即座に市長会、町村会に判断を委ねた。総人件費2割削減の公約も、県立病院職員を定数から外すことでお茶を濁した

▼自身の給与は全国で最低にしたが、議会には切り込まず、反発が起きることは避けてきた。志を持ち続けてきたということだろう。10年余の鈴木英敬劇が幕を閉じる。残像は残る。去る者は日々に疎しを、はなむけに贈る。