2021年6月19日(土)

▼文化庁長官を勤めた心理学者の河合隼雄さんに『おはなしのこわさ』というエッセーがある。混血児の孤児を救済する施設を設立した沢田美喜が、動機の一つにあげる衝撃体験について語る

▼戦後、列車に乗っていた彼女の頭上の網棚の風呂敷包みから混血児の遺体が発見された。沢田は施設建設資金集めはじめ多数の講演でこの衝撃体験を紹介したが、沢田の足跡を丹念に追うノンフィクションによると、話がだんだん劇的になっていくという。闇物資を摘発する警察官によって遺体は発見されたのだが、のちの沢田の話では、風呂敷包みは網棚から手元に落ちてきたことになる

▼「おはなし」は何度も繰り返すうちに聴衆の反応を受け、よりうまく、より感動的に、より「よい話」に変化していく。「立派」な話をしていると、自分も立派な銅像のようになって、血が通わなくなると河合さんは言う。議会で鈴木英敬知事の国政転出の意思を問うた三谷哲央県議は「また聞くのかという顔をしないで」

▼何十回も問われ答えたテーマで、三谷県議も昨年10月に続く質問。知事は「引き続き職責を果たす」という前回の答弁を引用し「現時点においてもこの考えに変わりはございません」。前段に「今後どのような政治人生を歩むにしても有権者の声にしっかり耳を傾けて精進していくことが重要」

▼前回「非常に分かりやすい」と矛を収めた三谷県議が、今回は「しつこいようだが」と再質問で食い下がった。三谷県議の言葉を引用し議場を沸かすなど、答弁がすっかり上手になった。血が見えにくかったのかもしれない。