<まる見えリポート>リニアック必要性訴え がん放射線治療装置 尾鷲病院で更新方針

【故障中のリニアック=尾鷲市上野町の尾鷲総合病院で】

三重県の加藤千速尾鷲市長は、故障により平成28年2月から使えない状態となっている市立尾鷲総合病院(同市上野町)の放射線治療装置(リニアック)について、来年度に新しい機器を導入する方針を示している。コロナ禍で病院の患者数が減るなど、財政が厳しい中での更新について、加藤市長は「尾鷲から(放射線治療のため)伊勢や松阪に通う人が、リニアックの必要性を訴えている。今、導入しなければならない医療機器の最たるものがリニアック」と話している。

リニアックは前立腺がんや乳がんなどで使用される、体への負担が少ない治療装置。がんによる痛みをやわらげる緩和治療にも使われる。

県内では桑名市や津市、伊勢市など11の医療機関でリニアックを導入している。紀宝町の隣の和歌山県新宮市の医療機関にもあるが、現在、東紀州5市町(尾鷲市、熊野市、紀北町、御浜町、紀宝町)の医療機関でこの装置が稼働しているところはない。

加藤市長は28年6月の市長選で、リニアックの更新を選挙公約に掲げて当選。30年度の当初予算案編成の際に一度は更新費3億4070万円を計上したが、市の財政難ですぐに予算書から取り下げた。それでも加藤市長は「任期中の更新を目指す」と意欲を示していた。

懸念されるのは、更新費の問題だ。尾鷲総合病院の累積欠損金は令和元年度決算で28億6712万円になり、病院財政は厳しい状況が続いている。

同病院は、経営の効率化を狙いに昨年4月から、療養病棟を回復期機能を持つ地域包括ケア病棟へ転換し、今年4月からは、国の「診断群分類包括評価(DPC制度)」に参加した。診療報酬が高くなる地域包括ケア病棟へ転換したことで医業収益が増え、令和元年度決算は6390万円と、28年度以来の黒字になった。

2年度決算も黒字を見込んでいるが、新型コロナウイルスの影響で、外来患者や入院患者は減っており「来年以降の新型コロナの状況や患者数などが今後どうなるかが読めない」と病院の担当者は話す。

尾鷲市は市議会9月定例会で、リニアックの更新費3億6千万円の債務負担行為を盛り込んだ病院事業会計補正予算案を提案し、賛成7、反対4で可決された。現在、1社と金額などを交渉中で、本年度中に契約する。

市議会12月定例会では、市議から「病院の収入がない中で3億6千万円をかけてやるのか。リニアックに固執しないで経営状況を考えて見直しをしたらどうか」などと質問があった。

加藤市長はこれに対し、「リニアックの患者需要の見込みから病院経営に影響はなく、収支として採算がとれると判断した」と説明。「尾鷲総合病院は地域に欠かすことのできない医療機関。がん治療で遠方まで行かなくても精神的、肉体的、経済的に軽減できるようにする」と、リニアックの更新を進めることを強調した。

リニアックの更新費3億6千万円は、地方公共団体金融機構から全額借りる予定で、令和5年度からの5年間で償還する。病院の令和2年度決算で資金不足比率が10%以下になるため、来年度に県に借り入れの申請をし、同意が得られる見通しという。

同病院によると、リニアックの利用者数は平成24―28年の5年間の1日当たりの平均患者数が5人だった。病院はリニアックを導入後、東紀州5市町の高齢化率や全国のがんの罹患(りかん)率などから計算したリニアックの1日平均患者数を10・8人と見込んでおり、令和11年度以降はリニアック単体で利益が確保できるとしている。

同病院の放射線技師世古幸秀さん(47)は、東紀州地域でリニアックが稼働している医療機関がないことから「地域間医療格差で治る病気が治らないのはつらい。医療人として一人でも助けたいと思っている」と話した。