<1年を振り返って>伊勢市駅前の再開発 ようやく事業スタート

【完成を目前に控えた伊勢市駅前B地区再開発事業の複合ビル=伊勢市で】

伊勢市駅前B地区市街地再開発事業として建設が進められている複合ビルを巡り、市の保健福祉拠点施設の入居に向けて内装設計委託料や債務負担行為を盛り込んだ一般会計補正予算案が市議会12月定例会で賛成多数により可決された。開発業者との基本合意締結から約1年。当初の計画から大幅な遅れを見せながらもようやく事業がスタートした。
事業は同市宮後一丁目の旧三交百貨店跡地の地権者で構成する伊勢まちなか開発(河崎一丁目)を事業主体に、駅前のにぎわい創出を目的とした12階建ての複合ビル建設を計画。公的補助を受ける形で平成30年6月に建設工事は着工し、1階を医療や商業テナント、2―4階を立体駐車場、9、10階をサービス付き高齢者住宅、11、12階を賃貸住宅として、令和3年4月の供用開始を目指して建設工事が進められてきた。

令和3年4月から「複合的な課題に対応する包括的な支援体制の構築」を自治体に求める改正社会福祉法が施行されることに合わせて、市は老朽化した福祉健康センター(八日市場町)の機能を含めた保健福祉拠点施設の整備を計画。公共交通が集中する同ビルの5―7階約3500平方メートルを賃貸し、上階への入居を計画していた公共職業安定所(ハローワーク)と連携して妊娠や子育て、求職に関して包括的な支援体制を確立させるべく計画を走らせた。

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交渉段階での説明を巡って議会との溝が深まる中、ようやく市とまちなか社との基本合意締結に至ったのが昨年11月。しかし入居を巡る条件交渉の過程で、当初は想定されていなかった市にとって不利益となる条件が次々と発覚した。

7月に開かれた市議会産業建設・教育民生委員会の連合審査会で、参考人招致に応じたコンサルタント会社新日の鵜飼英昭取締役は、新型コロナウイルスの影響で入居予定だったサービス付き高齢者住宅が白紙となり、悪化した資金繰りの穴埋めとして、建設協力金(一時金)の形で市に12億円の融資を求めていたことを明らかにした。

議会からは当然反発の声が相次いだ。市は8月、収支計画の健全化に向け、建設中のビルの権利床や共有部分を除く保留床の売却案と、売却が成立しなかった場合の都市開発資金の貸付金制度の活用、それらを前提に金融機関を交えた計画の見直し案の提出をまちなか社に提案した。

同社はこれを受け入れて計画の見直し案を提出。合わせて入居に向けた賃料や駐車場料金の条件を再提示した。最終的に、賃料を1坪当たり月額8千円(税抜き)、賃料の8・85%を共益費とし、エレベーターホールなど共用施設の維持管理費を共益費と同額で求め、駐車場料金は30分当たり百円の時間貸しとする条件で合意することとなった。

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市議会12月定例会では、施設入居に向けた内装工事の設計委託料1530万円と、債務負担行為として20年間の賃料22億6330万円を計上した一般会計補正予算案が審議された。20年間という長期にわたる債務負担行為の不透明さや、事業計画の見通しの甘さ、議論の不十分さを指摘する強い反対の声はあったが、結果として多くの議員が賛成に回り、賛成多数(賛成19、反対四)で可決に至った。

市は年明けから設計業務に入り、開発業者との基本協定や収支確保のための保留床売却に向けた公募を進めていく方針としている。

ビルは当初の予定通り、今年度中の完成を目指して建設が進められており、進捗(しんちょく)率は90%を超えている。一方で1階テナントの入居先は未定のままで、キーテナントとなる市の施設が供用開始となるのも早くても令和4年度となる見込みという。ビルを中心ににぎわう姿を見るまでにはまだ多くの時間がかかりそうだ。