<1年を振り返って>家畜伝染病も流行 豚熱対策、コロナが阻む 鳥インフルも隣県まで迫る

【イノシシ向けの経口ワクチンを埋設する作業(県提供)】

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、家畜伝染病の対応に追われた年でもあった。豚熱(CSF)に感染した野生イノシシが急激に増加し、感染確認地域は10市町に拡大。コロナ禍で、イノシシの感染対策を十分に実施できない時期もあった。11月以降には鳥インフルエンザが西日本で広がりを見せるようになり、発生が隣県まで迫る。収束の見通しが立たないまま年末を迎えた。

今春に入り、県内で感染イノシシが急増。昨年6―今年2月までは1月当たり10頭以内で推移していたが、4月は43頭に跳ね上がった。今月7日までに感染が確認されたイノシシは261頭。北勢が中心だった感染確認地域は南下し、いまや最南端は松阪市だ。

県CSF対策プロジェクトチームの担当者は、春に県内で感染イノシシが急増した理由を「春はイノシシの繁殖期。雄の動きが活発になり、個体同士の接触が頻繁になったことで感染が広がったのではないか」とみて、来春にさらに感染が拡大することを懸念する。

今年は新型コロナに阻まれ、CSFの感染防止対策が進まない時期もあった。政府が4月に緊急事態宣言を全国に発令。感染拡大を防ぐため、県外への移動自粛や県外からの来訪自粛、密閉・密集・密接のいわゆる「三密」の回避などが求められるようになった。

経口ワクチンを散布する具体的な地点を決める際、専門業者や地元の猟友会が実際にイノシシの生息地域を確認する。この作業では県外を含むさまざまな地域から業者を呼ぶ。不要不急の移動を避けるため、散布作業は計画通りに進まなかった。

また、新型コロナの世界的な感染拡大で海外からの輸入が滞り、政府から配分されるイノシシ向けの経口ワクチンの供給が遅れた。6月に初めて野生イノシシの感染が確認された松阪市には、県が過去のワクチン散布で余った分を回して対応していた。

国は基本指針で、イノシシ向けの経口ワクチンの散布を春と夏、冬に2回ずつ実施すると定めているが、まともにできたのは新型コロナが広まる前だけ。春夏の散布は遅れ、回数も1回ずつ。冬季の1回目の散布が今月5日に完了したものの、2回目は未定だ。

ただ、養豚場の豚はワクチンを接種しているため、感染が確認されていない。昨年CSFが県内で唯一発生していた養豚場も9月には安定的に豚肉を出荷できるようになった。県は来年以降も豚へのワクチン接種とイノシシ向けの経口ワクチンの散布を続ける。

一方、家畜を襲うのはCSFだけではない。11月に香川県の養鶏場で致死率の高い高病原性鳥インフルエンザが確認された。国内での感染確認は3年ぶり。12月には三重県と隣接する奈良、和歌山、滋賀の三県でも感染が確認されている。

県は香川県での発生を受け、先月20日に家畜伝染病予防法に基づく緊急消毒を県全域で実施。県内の131の養鶏場に「消毒命令」を出し、消毒用の消石灰を今月15日まで配布した。国の要請を受け、2回目の緊急消毒を18日から来年3月末まで実施する。

どの感染症も収束の見通しが立たないまま1年の終わりを迎えた。県は人員が手薄になる年末年始に備え、鳥インフルエンザの対策本部を今月11日に設置。県民にも死亡した野鳥を発見した場合の連絡など協力を呼び掛けている。県畜産課の担当者は「例年1―2月の発生が多く、危険な時期が続く。いつ県内で発生してもおかしくない」と警戒感を強める。気の抜けない年明けになりそうだ。