<1年を振り返って>鈴鹿のコロナ対策・企業補助金 ものづくりへ底力

三重県鈴鹿市は5月、コロナ禍で仕事量が減少する市内の中小製造業者などを対象に、コロナ対策となる製品の開発経費の一部を補助する市独自の経済対策「同市モノづくり企業感染症対策応援事業費補助金」を創設。11月末現在で9件の申請があり、うち5社6件を採択した。

採択企業では一部を除き、すでに製品の販売が始まっている。これまでに採択された6件を振り返る。

同補助金事業は、既存の技術や設備を活用し、新型コロナウイルス感染症対策となる製品や技術の開発に係る経費の3分の2(上限100万円)を補助する。事業費は1千万円。申請期間は令和3年1月29日まで。

ものづくり産業支援センターの日高剛所長(45)は「ピンチをチャンスに変え、応用力や発想力で新製品を作る精神は『ものづくりのまち鈴鹿』の底力を感じる」と話す。

審査は三重大や鈴鹿医療科学大、鈴鹿高専などの教授ら7人が「感染症対策に有効か」「開発能力」など五項目について書類で採点。161点中、106点以上を合格とした。

8月に採択されたのは、オリジナルグッズ企画販売業鈴鹿モールドプリントショップのりのりベイビー(今井貴裕社長)=同市東江島町=の夏用マスク▽自動車部品運搬用の専用台車などを製造する栄鉄工所(馬路義人社長)=同市末広南二丁目=の足踏式消毒液スタンド▽自動車部品の梱包(こんぽう)用クッション材工業用トレーを製造するヨシザワ(吉澤健社長)=同市三日市町=のフェースシールド―の3件。同社は11月にマウスシールドも採択された。

夏用マスクは、ポリエステル製のドライ生地で作った吸汗速乾タイプ。通気性が良く付け心地がいいのが特徴で「モータースポーツ都市宣言のまち鈴鹿」をイメージしたチェッカーフラッグ柄など、現在は約40種類ある。今井社長(38)は「県内自治体や各団体などの公式キャラクターとコラボしたご当地マスクなど、今後も種類を増やしていきたい。自社製なので少数ロットにも対応できるのが強み」と話す。

鉄製の消毒液スタンドは、溶接加工技術を活用し、足元のペダルを踏むことで、設置した消毒液が出てくる仕組み。塗装には高機能性抗菌塗料を使用する。

溶接加工の手間を省く工夫や材料を減らすことなどでコスト削減につなげたという。馬路社長(44)は「採択されたことで、市の公認として製品の信用を得ることができた。開発商品がきっかけで本業の方でも新たな仕事につながった」と話す。

フェースシールドとマウスシールドは、シールド部分を原料のペット樹脂から自社技術で加工し、シート状に成型する。全工程の一貫生産でコストを抑えた。

フェースシールドは市が市教委を通じて1万8千個を購入し、5月に小中学校に配布。現在は児童生徒らが活用している。

現在、フェースシールドは可動式や組み立て式など8種類、マウスシールドは抗菌タイプなど3種類あり、小売店にも販路を拡大した。増産に向け、県の「新型コロナウイルス対応緊急対策投資補助金」事業にも採択され、油圧プレス機1台を増やした。

吉澤社長(45)は「これまで直接消費者に届く販路はなかった。今回の開発製品が、新たな主力製品になりつつある」と話す。

11月には包装資材製造販売業、和光紙器鈴鹿事業所(和泉浩之所長)=同市伊船町=のフェースシールドが採択された。

頭部と接するクッション部分は、梱包材を作るための緩衝設計技術を基に、長時間の装着が頭部の負担にならないよう工夫した。作業用としてヘルメットの上からも装着できる。

和泉所長(53)は「公開プレゼンのつもりで申請した。採択されたということは、審査員の教授らに製品の技術や性能を評価してもらえたと言うこと。そこに価値がある」と話す。

同月はさらに、レーシングカー中心の部品製造や自動車整備業、エムツー(松村繁明代表)=三日市南三丁目=の可変式アクリルパーテーションが採択となった。

自動車部品製造時に使う3Dプリンターの技術で、プラスチック製の土台部分の仕切りを自由な角度で作ったり、企業名を入れたりすることができる。

松村代表(44)は「データを書き換えるだけでいろいろな物ができるので、オーダーメードに対応できる。大量生産はできないので、要望にあったものを作っていく」と話す。

1月からの販売を予定しており、現在も改良を続ける。

岡本隆典・市産業振興部長は12月3日、同市議会の新型コロナウイルス感染症対策特別委員会で、今後の市の経済対策の一つとして「製品の販路拡大支援など、継続した支援をしていきたい」と答弁し、各企業の取り組みに期待を込めた。