<まる見えリポート>熊野特産品プロジェクト アシタバに活路

【アシタバの成長を確認するNPO法人「あそぼらいつ」の谷さん=熊野市金山町で】

約2200年前、秦の始皇帝に命じられた徐福が、不老不死の薬を探しに上陸したという伝説が残る三重県の熊野市波田須町。その地に自生するアシタバを栽培して商品を開発し、同市の特産品にするプロジェクトが進められている。市水産・商工振興課の担当者は「ゆくゆくは耕作放棄地を活用して栽培に取り組み、生産者の増加につなげたい」と話している。

プロジェクトは三重大(津市)、熊野市で学童保育などを運営するNPO法人「あそぼらいつ」、同市有馬町の自動車部品製造会社「熊野精工」などが産学連携事業として取り組んでいる。

三重大などが、増加傾向にある熊野市を訪れる中国人観光客に向けた飲食物や土産物を開発しようと考えたところ、同市に自生しているアシタバに注目した。アシタバは「今日葉を摘んでも明日には芽が出る」と言われるほど生命力が旺盛。食物繊維などが豊富に含まれており栄養素が多く、同市では約2200年前に徐福が同市に探しに来た不老不死の薬はアシタバといわれている。

実験では、あそぼらいつが管理する熊野市と御浜町の畑でアシタバを栽培している。同町の畑では、1月に三宅島(東京)から取り寄せた苗百本を植え5月まで順調に育ったが、葉ダニによる被害で若葉が枯れてしまい、生育したのは7本だった。

このため同市金山町の畑に6月、120本の苗を定植。直射日光を避ける農業設備「寒冷紗(かんれいしゃ)」の下で育てた苗は30本中、25本育ち、寒冷紗なしの苗は90本中、8本が育った。

プロジェクトに取り組む三重大東紀州サテライト産学官連携アドバイザーの山本浩和さん(68)は「日光に弱いことや、畝を高くして水はけをよくしなければならないことが分かった。今年の冬には腐葉土などを入れて土壌改良していく」と話す。

栽培を担当するあそぼらいつの谷賢一さん(39)は「徐福伝説の話は面白く、商品化できれば地域にとって良いニュースになる。試行錯誤しながら、改良していきたい」と意欲を見せている。

現在、熊野精工が、フリーズドライ(凍結乾燥)製法でアシタバのパウダーの開発に取り組んでいる。アシタバを凍結乾燥させてパウダーにしているところは全国で他にないという。凍結乾燥させてパウダーにすることで、香りや食感、アシタバの栄養素が多く残ることが期待されている。

同社では檜作(ひづくり)羊次専務(65)が「地元で栽培されるミカンを6次産品にしたい」と考えたことをきっかけに機械を導入し、ミカンの皮を粉末にした加工食品を販売している。アシタバのパウダーは同様の技術で作られている。

檜作専務は「地域の新たな産品を作ることで、地域貢献したい」と話す。

三重大は来年度、温風乾燥したパウダーと凍結乾燥したものの栄養素などの含有量を比較分析する予定。結果をもとに付加価値を付けて商品化し、特産品として市内のパン屋やラーメン店などでパウダーを使った商品を作ったり、宿泊施設でパウダーを水に溶かして飲料として提供したりすることを目指す。

山本さんは「アシタバの商品化が雇用につながり、地域活性化になれば」と話している。